5月23日(日)その2 ほとんどね。

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半島一周を終え、空港からレイキャヴィークへと伸びる41号線に戻ってきた。
だがやっぱり、2000キロにはまだ足りない。あと40キロぐらいだ。

どうしよっかな…。
とりあえず休憩したいので、ガソリンスタンドに向かってみる。
今日は祝日であらゆる店が休んでいるとは言え、
ガソリンスタンドと付属のミニショップぐらいは開いてるだろう。

そして案の定、ガソスタはオープンしていた。
そしてショップは閉まっていた。

こんな時だけ律儀に閉めるなよ!!

まったく、祝日ってのは本当に使えないな!
祝日の宗教的意義も労働者の休養的意味も関係のない無責任な俺からすると、これが本音だ。
実際、せっかくの休みなのにあちこちの店が全部閉まってるなんて、一体何が楽しいんだろう。

時間は16時。
特にやることもないけど、店も開いてない。
こうなったら、もうどっかに向かって走るしかないよなぁ。

地図を睨み、41号線をレイキャヴィークに向かって10キロほど戻ったところにある、
ヴォガルという海沿いの町に行くことにする。
タクシードライバーのラッキが「ヴォガル?なんにもないぞ?」とか言っていたような気もするが、
このあたりでまだ行ってない町なんてここ以外にないんだ。
それに、ここに行って帰ってくるだけで20キロにはなるしな。

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この道を、アイスランドに来た初日の4月4日にも走った。
思ったより舗装も整ってて路肩も広くて走りやすーい!なんて思ったものだ。
翌日にはバッチリと現実を思い知らされるのだが。

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あの夜はあまりの寒さと眠気のために、この路肩の隅で寝袋に入って仮眠もしたよなぁ。
初めて見たオーロラも綺麗だったが、何より寒かった。マイナス2度だったハズだ。
ラッキに拾ってもらえなかったらどこで寝ていたことやら。
今はこんなに暑いのにねぇ。

さて、そろそろ遠くにヴォガルの町が見えてきたな。
前に通った時は夜中だったので町の光だけが見えて、どんなとこなのかなぁとは思ったんだ。
精神的に立ち寄ろうという余裕はまるでなかったけど。

高速道路のインターのようなところで41号線をはずれ、海沿いの町ヴォガルへと進む。

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17時半。ヴォガル着。
なんにもない町とは聞いていたが、そんなことは…なんにもねぇ!!
でも港があったので来てみた。

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まぁ、何か楽しい店があったとしてもどうせ今日は閉まってるのでおんなじだ。
そんな祝日にはやはり誰も外出しないのか、この小さな港町でもほとんど人を見かけない。

静かな港は、ちょっといい感じ。

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せっかく来たからには港でカッコイイ写真を!と思ったが、ダメだ。
カッコイイ写真というのを狙って撮ろうというあたりですでにダメな気もする。

しょうがない。帰るかー。

港で少し休んでから、また閑散とした町を抜ける。
町中の坂をのぼっているところで、誰かの声がした。
どうやら俺を呼んでいるらしい。
坂の下にあるプレハブ小屋みたいな建物の前で、男が俺に向かって手を振っている。

「コーヒーを飲んでいかないか。」

そう言っているように聞こえる。
上り坂の途中で立ち止まり、ユニサイクルに乗って坂を一気に下る。
プレハブの前にはいつのまにか彼のほかにも何人か子どもたちがいて、
坂を下って現れた俺に向かって一斉に拍手してくれた。

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………。

紅茶とお菓子が振舞われている。
コーヒーか紅茶か、と問われて迷わず紅茶を選んだ。
コーヒー愛好者だらけのアイスランドにおいて、紅茶が飲める機会は貴重である。

どうやらここ、いわゆる選挙事務所らしい。

それを知った瞬間、アイスランドの政治に関わる気がまったくない俺としては立ち入るのを躊躇したのだが、
この町の主張を中央に訴えるためだけの極々小さな政党なんだと説明されて、
うーん、まぁいっかーと思ったのだった。

選挙事務所があるからには近々選挙が行われるんだろうが、
それよりはどっちかっていうと、地域の人々が集まってホームパーティを開いているようにしか見えない。
ケーキも手作りらしくておいしい。

ニュースに出ていたユニサイクルガイがこの小さな町にやって来たというので、
事務所はちょっと盛り上がっている。

なぜかA3ぐらいの紙に俺の名前を漢字で書いてくれと言われ、極太マジックで書道っぽく揮毫。
その紙は、そのまま選挙事務所の壁に貼られて展示されてしまうのであった。

見慣れない漢字を見て何を勘違いしたのか、1人の子どもが自分の腕にも書いて!と言ってきた。
アイスランドの若者の間で流行しているタトゥーみたいなつもりらしい。
マジックなら消えるからいっかーと思い、サラサラーっと書いてあげる。
すると、ボクもボクも!と列を作りだすお子さまたち。
結局5人ぐらい、腕とか肩に縦書きやら横書きやらで俺の名前を刻印しまくってやった。

彼らにはまったく理解できない複雑な文字をスラスラと書ける俺は、
外国人というだけでなく、なんだか尊敬のまなざしで見られているような気さえする。
世界にはこんな文字を使って生活する人々もいるんだよ。興味があったらいつか来てみるといい。

事務所の人々と話しているうちに、驚愕のニュースをゲット!
ヨーロッパに迷惑をかけまくっているあの噴火が、なんと終了したらしい!
今では飛行機も普通に飛んでいるとのこと。

え、マジで!?それは嬉しい。
俺が通り過ぎた後に噴火して、俺が帰る直前にはちゃんと鎮火するとは!
ひょっとして俺、エイヤフィヤトラヨークトル火山に愛されているのでは…。自分が怖い!

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帰ろうとすると、やはり記念撮影は避けて通れない。
誰が誰の家族なのかサッパリわからないが、とにかくみんなフレンドリーな人々だった。
特に何がフレンドリーって、俺にやたらと食料をくれるのだ!

手作りのお菓子やフルーツ、さらにはわざわざ家に帰ってサンドイッチを作ってきてくれた女性まで!
店という店が閉まっているこの日、これ以上に嬉しいプレゼントはない。

すっかりご馳走になった事務所を後にし、ふたたび上り坂に向かう。
みんながジーッと注目しているので、先に言っておく必要がある。

「先に言っとくけど、坂では乗らないからね!」

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あれ、なんか子どもたちがついてくるぞ。
俺のクールなタトゥーをその腕に受けてすっかり俺の子分になってしまったのだろうか。

あ、そうだ。いい機会だから彼らに写真を頼もう。

「ヘイボーイズ!ちょっと頼みがあるんだ。」

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うーむ…何度も撮り直してこれか…。
このポーズはもうやめたほうが良さそうだということだけはわかった。

ま、まぁ、いいとしよう。
楽しいのが一番じゃないか!!

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結局この子たちは、41号線に乗る入り口のところまで延々と俺を護送してくれた。
彼らと一緒に走るのは楽しかったが、
一輪車は子どものチャリンコよりも遅いということを改めて思い知らされる結果となった。

ここはなんにもない町なんかじゃなかったよ。この町に来て良かった。
さらばだ!

子どもたちと別れ、ふたたび41号線を走ってケプラヴィークに戻る。
ヴォガルに寄ったおかげで距離も進んだ。
1976キロ以降は、自分が生まれた年齢と重ね合わせて走る。
1キロごとに1歳ずつ歳を取っていく。自分の生きてきた歴史をたどるユニサイクリングだ。

途中でクルマから出てきた男ばかりの家族連れに写真を撮られる。
以前にも俺を目撃しており、今日も遭遇したので思わず止まったとのこと。
ほらな、やっぱり俺を2回見た人はもう話しかけずにはいられないんだよ。
だからどうってことはないけど。

ケプラヴィークの街に戻ってきた。

腹が減ったので、ヴォガルでもらった食料の一部を食べる。
手渡された袋には、ケーキにサンドイッチ、チョコにバナナにキウイにリンゴまで入っていた。
これは本当に助かる。しかもうまい!
つくづく行ってよかったなぁ、あの町…。

屋根の修理をしているらしき若い男たちが、屋根の上から俺に声をかけてきた。

「よぉ!もう一周したのか?旅はどうだった!?」

「ほとんど終わった。最高だったよ。このバイクはキミの?」

スズキのハヤブサが置いてある。大型でとにかく速いマシンだ。

「そうだ!次にアイスランドに来た時は貸してやるよ!」

「ハハハ、1日で1周できるって!」

うーん、みんなが俺のことを知っている…。

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店のショーウィンドーに写った自分の荷物が異様な大きさに見えたので、写真を撮ってみた。
確かにちょっと異様かも知れない。
でも今さら遅い。

今日は普通に泊まろうと思い、キャンプ場までやって来た。
実は今朝ラッキに連れてこられたタクシー会社の事務所の真横がキャンプ場である。
素晴らしい立地!と思って受付に行ってみると、なんと今はまだクローズ!
キャンプ場は閉まってるけどゲストハウスならあると言われて一応値段を聞いてみると、

「部屋は8千5ひゃ

「ごめん、よそを当たるよ。」

8000と聞いた時点で、もうその先を聞く必要もなし。高過ぎるわ!!
キャンプ場を立ち去ろうとすると、さっきの受付の兄ちゃんが出てきた。

「ここは閉まってるけど、他にもう1つキャンプ場があるから行ってみてはどうですか。」

「そうなんだ、ありがとう、探してみるよ!」

ユニサイクルを見て「ニュースで見ました。クール!」と言っておった。
マジメで親切な兄ちゃんだった。

でも結局、もう1つのキャンプ場とやらはどうやってもみつからなかった。
ユースホステルならあったけどなぁ。

ケプラヴィークもよくよく探すと、いくつかは開いてる店やコンビニを発見。なんて気骨のある店だ!
たぶんトヨタの店も営業してたと思う。こちらはさすが。

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キャンプ場がないとなると、やっぱりここしかないか。
アイスランドで何度もお世話になったこの標識。

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コンテナのある休憩所に到着!
ここで2連泊決定!!

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22時かぁ。明るいなぁ。
コンビニで買ったビールがうまい。

今日の走行は80キロ。よく走った。
明日には余裕で2000キロを達成できるだろう。

思えばこのタイミングで2000キロ問題が浮上したことによって、
余り気味だった時間を有効に使うことができた。
明後日の朝に出国するから、明日は実質的に最終日だ。
いい一日になるといいな。

今日もいろんな人に会ったけど、一番印象に残ったのは、
さっきケプラヴィークの街ですれ違っただけの、黒人のおばさんの一言。

「あら、あなた。旅は終わったのね。」

ええ。もう、ほとんど。