5月23日(日)その1 アイスランドブルー

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朝から雨が降ってないなんて何日ぶりだろう。
服や装備が湿ることなくパリッとしているというのは実に清々しいことである。

今日はケプラヴィーク空港の周囲にある小さめの半島でも一周するかな。

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明るくなったのでもう1回コンテナの中をよく調べてみたが、箱はやっぱりなかった。
よし。これで諦めがついたよ。

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さて出発。
遠くに空港のレーダーが見えるな。
そうだ、まずは3キロ先の空港に寄って水を補給するとしよう。
トイレも借りたいし、噴火の影響でフライトがどうなっているかの情報も必要だ。

水とトイレと情報を求めて、懐かしの空港に向かってひた走る。
いやー今日は爽やかな天気だなぁ。
そんな時、1台のタクシーが近寄ってきて路肩に止まった。

これは誰だと思うまでもなく、間違いない。
ラッキのクルマだな…。

「やぁ!もう日本に帰るのか?」

「いや、帰るのは明後日だよ。今は空港まで水をもらいに行く途中だ。」

「そうか!水ならウチの会社の事務所にもある。すぐ近くだ!コーヒーでも飲んでいかないか。」

よって、空港を目前にして、またしてもラッキのタクシーに乗せてもらうことに。

「このクルマにまた乗ることがあるとは思わなかったよ…。」

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事務所というのは本当に空港からすぐ近くにあった。ケプラヴィークの街のはずれだ。
このタクシー会社はどうもあちこちに事務所を持っているらしい。

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さっそく事務所の中に通され、コーヒーをご馳走になる。

「これからどこに行くつもりだったんだ?」

「もう特に行き先はないんだけど、この半島でも走ろうかと思って。…ちょっとコレを見て。」

そう言って俺のユニサイクルの距離計を見せる。現在1915キロ。

「あと85キロで2000キロなんだ。ここまで来たら、もうちょっと走ってみたいと思わないか?」

「ハハハ、なるほどな!でもこの半島を走ったぐらいじゃ85キロもないぞ。」

「そうなんだ。それでちょっと悩んでいるとこ。まぁ時間はあるからなんとかするよ。」

「それならここでずっとタイヤを手で回してればいい。簡単だろう?」

俺はハムスターか!!

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なぜか2度も乗せてもらうことになったラッキのクルマ。
フォルクスワーゲンにワゴンなんてあったんだな。

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同僚の気のいいオッチャンと記念撮影。

「このユニサイクルは優秀な日本製なんだが、なぜかタイヤだけが台湾製なんだ!ハハハ!!」

あ、ラッキがまた持ちネタを披露している。
先日ハフナルフィヨルズルで再会して以来、すっかり彼の持ちネタとなっているこのジョーク。
きっとすでにあちこちでウケを取ってきたに違いない。

そう思うと、俺のマウンテンユニサイクルが実はフランス製だなんて今さら言えない…。

仕事中のラッキは、また慌しく事務所を出て行った。

「半島を走ってまた帰ってくるのなら、重い荷物はこの事務所に置いておけばいいよ。」

彼はそう言ってくれたが、気持ちだけいただいておこう。
街の観光ぐらいならまだしも、アイスランドの大地を走る時には、
重くて肩が痛かろうともやっぱりこのリュックを背負って走りたいからな。

コーヒーを飲み、水の補給もさせてもらって、今度こそ出発。
空港の周囲の半島を半時計回りに軽く一周だ。

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途中で見つけた花束。
ここで交通死亡事故があったのだろう。

俺も改めて気をつけよう。

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外はいつのまにか、雲ひとつない青空。
絶好のユニサイクル日和だ。

あとアイスランドでやり残したことがあるとすれば、
2000キロ走るということと、道を走行中のいい写真が撮れればなぁってことぐらいだ。
この天気なら期待できるかもな。

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この海の先にはグリーンランドがあるハズだ。
グリーンランドかぁ。想像もつかないような遠くの島って感じがするなぁ。
そう思いつつ、今自分は日本から遥かに離れたアイスランドにいるのだった。
いつでも自分の居場所が中心だ。

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ミニ半島一周の旅、最初の町に到着。
天気がいいと町ものどかに見える。

あ、歩道にバナナの皮が。またかよ。



アイスランドの道端にはよくバナナの皮が落ちているよ、という動画。

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この町のスーパーは閉まっていた。
今日は祝日だからねぇ。やっぱりねぇ。

でもこの事実、アイスランド人民の間でも周知徹底はされてないらしく、
時々クルマがやって来ては、絶望の表情を残して走り去って行く。
きっと俺と同じように『ケッ、祝日なんぼのもんじゃ!』とか思ってるに違いない。同志よ!

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この先には灯台があるんだな。

そういえば先日この半島を一周したラッツィによると、
この近辺ではこの灯台が最も素晴らしいということだ。
会話のハシバシから微妙に灯台マニアっぽいオーラを漂わせていた彼の言うことなので、
ここはひとつ彼を信じて立ち寄ってみることにしよう。

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ほぅ。なんだか地中海にでもありそうな灯台だな。地中海行ったことないけど。

ここで話しかけてきたおじさんは、ブルーラグーンのTシャツを着ている。
ミーハーな人だなと思っていたら、彼はなんとブルーラグーンに勤めるエンジニアだった。

「今ではブルーラグーンだスイミングプールだってあちこちにリッパな施設があるけど、
 昔はその辺の海や川で普通に泳いで遊んでいたもんさ。この島も変わったんだよ。」

隣では彼の奥さんらしき女性が携帯電話で長話をしている。

「彼女の電話は長いんだ。いつまでたっても終わりゃしない。」

「それは世界中で同じ現象だと思うよ。」

灯台を出て、ふたたび半島一周の旅へ。

天気は最高。海も綺麗だ。でもなかなか写真を撮れそうな場所がない。
この際だから道の途中で誰かに話しかけられたついでに写真を撮ってもらおうかとも思うのだが、
そんな時に限って誰も話しかけてこない。他力本願だとそんなもんだな。

バナナの皮があった町から7キロ走って、次の町に到着。
他の地域でもこれぐらい町の間隔が狭ければ水と食料の確保に苦労しなくて済むんだが。
あ、でも今日は祝日だった。
スーパーの前で休憩していると、やっぱり知らない人がやってきては無念の表情を浮かべて帰っていく。

あー暑い。夏みたいに暑い。
歩いて町の中を進んでいると、背後から迫ってきたトラックのドライバーが何やら叫んでいる。
水産加工業者みたいなトラックを下りてきた彼は、
ボサボサのドレッドヘアーとヒゲにヒッピーみたいな服装。
自家用車でアイスランドを旅行中のフランス人だと言う。
ユニサイクルに興味を示して、勝手に試乗し、しかも乗れなかった。

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そして去っていく。カメラで俺の写真を撮りながら。

うむ。
今までアイスランドでいろんな国の人間に出会ってきたが、なぜかフランス人には遭遇しなかった。
そしてようやく俺のマウンテンユニサイクルの母国であるフランス人に会えたと思ったら、あんなヤツとはな。
ハッキリ言って、ああいう失礼なヤツは嫌いだ。
アイスランドに来る以前に持っていたヨーロッパのお国柄のイメージなんて、
いろんな意味でホントにアテにならんものだったよ。

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道を走行中のカッコイイ写真!というイメージだと、なぜか両手を広げてしまうのは謎である。
しかも別にカッコよくない。

このままコレといった写真を撮れないうちに終わってしまうのだろうか…。

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今となっては大した目的もない、ただ距離を稼ぐだけの旅である。
張り合いがないといえば、ない。
ムリして2000キロなんて数字にこだわらなくても、あるがままの距離でいいような気もする。

コレといった写真もそうだが、このまま盛り上がりもないうちに終わるのかな。

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遠くに空港が見えてきた。
ここは空港のちょうど裏側にあたる場所だ。
ミニ半島一周もそろそろ終わりが近い。

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もはや当たり前のように一輪車を漕いでいるが、
こうやって見るとちょっと変だな。
ハタから見るともっと変なのかも知れない。

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俺も50日ぐらい前に、こうやってアイスランドに来たんだなぁ。
飛行機も今日はちゃんと飛んでいるようだ。
明後日もぜひ、その調子で頼む。

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半島を一周して、T字路に到着。
ここからケプラヴィークまでは昨夜も通った道のりである。

ここに来て、忘れるということについて考える。
昨日ここを通った時は、翌日にまた同じ道を通るかも知れないと思うとイヤでしょうがなかった。
でも今は、さほどイヤでもない。昨日の苦痛を忘れてしまったおかげだ。

そして、苦しみを忘れたのと同じように、感謝の気持ちも薄れていく。
まだ旅が終わったわけでもない、まだアイスランドにいるにもかかわらず。

今まで多くの人々に助けられてここまで来た。
でも今、そういった親切な人々に対して、あまりありがたいとも思っていない自分がいる。
俺は薄情なのだろうか?そうかも知れない。
でも、忘れていくんだ。常に今が優先されてしまう。

だから、せめてたくさんの今を記録しておきたい。
記録しておけば、その瞬間の苦労や感謝を紙の上に留めておくことはできる。
そしてそれを読み返した時、そんな気持ちを少しは思い出すことができるかも知れない。

俺が詳細な旅日記にこだわっているのには、そんな理由もある。