みやこびと

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せっかく琵琶湖に来たので、走りづらい国道を離れ、しばし湖岸の周遊道路へ。
ここは信号もなくていいし、一輪車が走っていても目立たない。
また琵琶湖を変なので走ってるヤツがいるな、ぐらいにしか思われないもんな。

だが、うっかり背中の日本縦断看板を見た人はちょっと驚くようだ。
おばさまの団体の間をスリ抜けた後、そのなかの一人が、

「イーッ!!日本縦断!?」

と叫んだ時には思わず落車しそうになった。
さすがに関西まで来ると、リアクションの洗練度が違う。

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琵琶湖南岸の大津の街を過ぎれば、いよいよ逢坂の関。
東海道で京都へと至る、最後の峠だ。
わかってはいたが、それなりの坂。

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坂の途中、路傍で小さく信仰されている何か。
こういうの、なんとなく気になる。
この地で長く暮らしてきた人々の記憶が垣間見えるようだ。

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逢坂の関の頂上付近。もうちょい!
京都から出る人にとっては、この関を越えればもうアウトオブ都。
都に名残を惜しんで最後に振り返ったりした場所だろう。
今はみんなクルマなので、こんなトコで振り返ったら事故るけどな。

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上ったら、下りるの法則。
ユニサイクリング中。
でもたしか、この先にもう1つ小山があったような気がするんよなぁ。

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逢坂の関を乗り越えると、そこは京都府。
さようなら滋賀。こんにちは京都。

それにしても滋賀県、正直ちょっと印象薄い。
まぁ去年は200キロぐらいかけて琵琶湖を一周した舞台だったわけだし、いっかー。

えーさて、そんなことより。
京都府に入ったといっても、ここは山科区といって、まだ観光で有名な京都市街ではない。
市街に入るためには、もう一山越えないといけないのだった。

実は琵琶湖一周の時も、京都側から一輪車でこの道を来たことがあってねぇ。
しかも深夜にねぇ。
とにかくイヤだったんだ。

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頂上にある、これが。

坂のキツさなんてどうでもいい。
ここで車道のトンネルから引き離され、暗くてジメジメした道を歩かされ。

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このトンネルをくぐらされる!
今は昼間だからまだなんてことはないが、あの夜はココが最強に怖かった。

アイスランドで一人で野宿しろと言われてもまったく問題ない。
が、このトンネルで一晩寝ろと言われたら、もう絶対にイヤ。
苦手。もう本当に苦手。
1000円払えばVIP専用の安全で明るいトンネルがあるよと言われれば、まず払う。
今日の行程が、このトンネルを明るいうちに通過することを絶対条件として設定されたことは言うまでもない。

ところで写真のおじさん、京都側から歩いてトンネルから出てきたと思ったら、
出口でUターンしてなぜかまた引き返している途中。
もう何なんだ!その挙動が怖いよ!

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はい、俺的に本日のメインイベントであるトンネルを通過しました。
あーよかった。

このあたりは東山といって、猛烈にお墓がいっぱいあるんですわ。
そして最後にあのトンネル。演出の見事さはそのへんのホラー映画どころではない。
経験上、夜中に突破するのは大変オススメしません。

坂を下りると、今度こそ京都市街。
無数の神社仏閣に細い道、歴史と伝統と格式とぶぶ漬けにまみれた京の都ですよ。

ここに来て俺、猛ダッシュ。

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信号待ちでとりあえず何かを撮る。

暗くなる前に京都市街を抜けておきたい。
別に抜けないとなにかがマズイわけでもないのだが、なぜか京都はサッサと抜けたいのである。
深い意味はない…とは思うんだけどな。
特に知り合いがいるでもなし、つらい思い出があるでもなし。なんで?怨霊?

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走りながら、いちおう京都っぽい寺を撮っておく。
京都タワーを目の端っこで盗み見、ガメラか何かに破壊されたことで有名な駅ビルもチラ見。
とにかく走りっぱなし。

京都の人々は、俺を見てもあまりリアクションがない。
気にはなるのかもしれないが、ほとんど話しかけてこないし、大騒ぎなどはまずしない。

市街地を走る時には注意するべきモノが多いので、常に目や首を動かして、あらゆる方向を見る。
交差点での左右確認など、教習所の教官がハダシで胸に飛び込んできそうなぐらいの徹底ぶりだ。
その際に人と目が合ってしまうことも多いのだが、ここで京都人は目を逸らすのである。ツイッと。
やはり名古屋とは違うなーと感じる。近いのに。
俺が京都を早く出たがるのも、
『京都の人はよそ者に冷たい』
という思い込み、刷り込みがあるからかも知れない。まさに偏見だ。

そんなモロモロの事情で京都市街を熱走していたその時、
歩道の隅に立っていた少年が、俺に向かって何かを突き出した。

え、水のペットボトル?

まさしく、マラソンの給水のような感じ。
走りながら受け取れという気配だったが、そんなわけにもいくまい。急速降車して水を受け取る。
止まってわかったが、路肩に停車中のクルマがあって、中から少年の母親らしき人が言う。

「あぁ、ゴメンなぁお兄ちゃん、止めてしもうて。」

「いえいえ、大丈夫ですよ。ありがとう!」

俺は一輪車に乗るのは大してうまくもないが、急に降りるのだけは結構得意…ハッ!?

これだ!!
突如、ヒラメいた。

ジロジロ見るでも、親しげに話しかけてくるでもない。
鬼気迫る表情で走る俺の勢いを止めることなく、さりげなく水を手渡してやろうとする。
これこそが、京都人の優しさ、『気遣い』というヤツではないか!?

好意にも、いろんな示し方があるんだな。
そんな気がした、京都のどまんなかであった。

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コンビニ休憩中。
うーん、さすがに疲れた。走りすぎだ。街を走ると疲れる。
それでも市街の中心部は抜けたな。よし、もう一息。

東京の日本橋から続いた国道1号線の旅は、ここでちょうど500キロ。
1号線はまだ大阪まで続くのだが、京都まで来ると、俺には元バイク便ライダーの土地勘がバリバリ働いてしまう。
ここから神戸まで行くとなると、そりゃあ171号線のほうが早いよな。
というわけで、ここで1号線から171号線にチェンジだ。

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京都の南にある桂川を越えると、ようやく京都市街を脱した気分になる。
あとは171号線をひたすら進んでいれば、大阪、兵庫と続く。

桂川を渡ってほどなくして、お気に入りのネットカフェを発見。
よし、今日はここで寝るか。

酷暑の三重県を横断した日以来、どうも少しカラダの調子がおかしい。
その後に峠越えも続いたし、ここらで一度、ちゃんと寝ておいたほうがいいだろう。

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ネットカフェに入ったことは数限りなくあるが、料理を頼んだのはこれが初めてだ。

ふと思い出したのである。

静岡あたりから、差し入れとしてお金をもらうことが何度かあった。
非常に恐縮なので現金は勘弁してくれ、という話を前にも書いたのだが、
この旅で最初にお金をもらったのは、実は岩手なのである。
その時も驚き、さすがにお金はもらえないと言ったのだが、結局は気持ちとしてありがたくいただいてしまった。
キチンとポチ袋に入れられた3000円はそれ以来、お守りがわりとして俺のメッシュジャケットの内ポケットにしまわれていたのであった。

え、内ポケット?あの汗だくの…?

ネットカフェ内で急に気になって内ポケを確認すると、ポチ袋はすっかり湿ってグズグズだった。
中身の札もまた、雨に濡れたかうっかり洗濯してしまったような状態。
うわぁ、これは…。

そこで俺は、今日このお金を使わせてもらうことに決め、
栄養を蓄えるべくやたらとボリュームのある料理を頼んだ次第なのである。

ごっついモノを食べ、暑くも寒くもないネットカフェで一晩寝たら、かなり復活した。
これで神戸までもうちょっと、元気に走れるだろう。ありがたい。

おっと、昨日は46キロか。
とにかく明るいうちに恐怖のトンネルと京都市街を抜けられて、よかった。