5月17日(月)その1 ヤツが…

イメージ 1

今日ものんびり起きる。
夜中にジェイソンが来るかと思ったが、どうやら来なかったようだ。一安心。
実際、どうしても会いたくないというほどではないのだが、かと言って会いたいわけではない。

近所のスーパーに行ってインスタントコーヒーを買い、沸かして飲む。
うーん薫り高いひととき…。
なんて思ってたら、ジェイソンが現れた。

うわっ、来たかジェイソン!諦めてニュージャージーに帰ったんじゃなかったのか!!

とりあえずテントの前で立ち話もなんだということで、ユースホステルのラウンジに移動。
ここでジェイソンはおもむろにノートパソコンを取り出し、ネットを検索しはじめた。
…あいかわらず、特に会話はない。

ジェイソンとはエギルスタズィールで会って以来、3週間ぶりだ。
最初に会ったセイズィスフィヨルズルから考えると、実に5度目の遭遇ということになる。

なんでコイツとばかりこんなに会うハメになるんだろう…。
ジェイソンが俺の何を気に入っているのか、サッパリわからない。

お目当てのサイトに繋がったらしく、パソコンを俺のほうに向ける。
あぁ、コレか。カウチサーフィン。
ネットを介して世界中の一般庶民宅にタダで泊まろうというコミュニティーサイト。
ボソッとジェイソンが言う。

「今、君がレイキャヴィークで誰かの家に泊めてもらえるよう、働きかけているところだ。」

えー…。気持ちは嬉しいが、ネット経由でしかも他人経由の紹介はもういいよ。
やっぱりそう言うのは、お互いが気に入ってからじゃないと、お互いに楽しくないでしょ。

でも残念ながら、こんな複雑な心情を英語で表現できるほどの英語力はない。
ましてやジェイソンには、
俺がヘタなりになんとか英語で表現しようとしていることを、汲み取ろうとしてくれる姿勢を感じない。
それなのに、なんでコイツはわざわざ俺に会いに来るんだろう。

「俺はこのキャンプ場が気に入ってるから、ここで充分だよ。」

簡潔にそう言っておいた。

ところで、え!?
ジェイソンがカウチサーフィンの掲示板で色々書き込んでいるのを見ていると、
そこに知っている名前を発見した。

ヴァレリオ!!

うわっ、そういうことだったのか!
ネットを通じて、いつのまにかヴァレリオとジェイソンが繋がっていた!
でもなるほど、これでジェイソンが俺のレイキャヴィーク入りを知っていた理由がわかった。

実はヴァレリオは、
ハプンの街を出てからもずっと俺に天気予報やら地域の情報やらをメールで伝え続けてくれていた。
彼の情報はかなり役に立ったし、
何よりアイスランドで思いがけずこんな友人ができたことが本当に嬉しい。

しかしまさか、ヴァレリオとジェイソンがいつのまにか知り合っていたとはなぁ。
おそるべし情報化社会…。

用事が済んだのか、またおもむろにノートパソコンをしまうジェイソン。
彼の行動はいつも『おもむろ』なので先が読めない。
そしておもむろにボソッと言う。

「レイキャヴィークのダウンタウンで、タダで食料を貰えるところがある。行ってみないか。」

タダで食料配布?なんじゃそりゃ。炊き出しみたいなもんだろうか。
一体どんなものをくれるんだろうな。それはちょっと興味がある。
しかしジェイソン、俺のことをよほどの貧乏人だと思ってないか。まぁ間違いではないが。

キャンプ場から微妙に遠い距離を歩いて、街のダウンタウン(繁華街)に移動。
てっきり食料配布会場に行くのかと思ったら、ジェイソンは俺をとあるアパートに連れて行く。
中から出てきたのはアジア系の若い男。
部屋に招かれ、なぜかもてなされる。

イメージ 2

彼はマーティン。フィリピン人。
子どもの頃からアイスランドに住んでいるのでアイスランド語もペラペラ。
キッコーマンの醤油(写真下)をこよなく愛するナイスガイだ。

無口なジェイソンと違って、マーティンは明るくて気さくな人柄である。
俺と会ったことをとても喜んでくれて、アイスランドの話題に花が咲く。

どうやらジェイソンはこのマーティン宅に1週間ぐらい居候しているらしい。
性格の全然違うこの2人がどういう経緯で知り合ったのかと聞いてみたら、
宗教が同じだから、とのこと。
ふーん?よくわからんが、そんなこともあるのか。

イメージ 3

これから銀行に行くというマーティンと別れて、俺たちは今度こそタダ飯を食いに出かける。

しかし、どうもアテがハズれたらしい。
ジェイソンは食料配布が毎日行われていると思っていたようだが、どうやら土曜日だけというのが実態のようだ。
今日は月曜だし、俺はいくらなんでも土曜日までレイキャヴィークに滞在することはないだろう。
ちょっと残念だ。
ちなみにこの食料配布、『Food not Bomb(爆弾ではなく食料を)』とか言う、一種の慈善事業らしいよ。

イメージ 4

そのうち、用事を終えたマーティンが再び合流。
好青年な彼がいてくれると場が明るくなっていい。

ここで急に、俺に行きたい場所ができた。
レイキャヴィークのあちこちには『レイキャヴィーク・グレープヴァイン』というフリーペーパーが置かれている。
2週間おきぐらいに発行される、ちょっとした新聞のようなものだ。
そういえばブッパの家でネットを見ていた時、
偶然見つけた俺を紹介していたサイトの名前が、レイキャヴィークグレープヴァインだったハズだ。
それに俺のことをニュースではなく新聞で知ったと言っていた人が何人かいた。
その新聞って、ひょっとするとこのグレープヴァインのことなんじゃないだろうか。


現在配布されているグレープヴァインには、俺のことは書かれていない。
じゃあ、バックナンバーかな?

「マーティン、この新聞のバックナンバーってなんとか手に入らないかな?」

「うーん、どうだろう。できるかも知れない。
 あ、でもグレープヴァインの事務所って、どうやらこのすぐ近くみたいだよ。」

「おぉ、それじゃあ今から行ってみるわ!」

そんな流れで、やって来ましたグレープヴァインの事務所。思ったより小さいところだ。
俺の個人的な興味に付き合ってくれているマーティンとジェイソン。
特にマーティンは英語もアイスランド語も話せるので、俺の代わりに用件を伝えてくれて非常に助かる。

で、結局、グレープヴァインの紙面には俺は載っていないことがわかった。
俺について書かれてたのはネット版だけだったらしい。
そっかー。
それはわかったが、じゃあ何人かが新聞で俺を見たと言ってたのは一体なんだったんだろう。

レイキャヴィーク・グレープヴァイン事務所への電撃訪問は、こうして不発に終わった。
でもこんな風に3人で事務所に乗り込んで行ったのは、なんだかウキウキとして楽しかった。

それからしばらくして。
どういうわけか、ミルコというスペイン人の旅行者が出現する。
どうやら彼とジェイソンはレンタカーをシェアしてどこかに行く計画を立てているらしい。

そして、なんだかわからないがこの4人で行動することに。

イメージ 5

園児の散歩だろうか。
合理的な方法だとは思うが、見た目は犬ぞりである。

さて。
日本、アメリカ、フィリピン、スペインという多国籍の怪しい一行は、
なぜか俺が昨日何度も来たあの背の高いリッパな教会にやって来た。

何を言っているのかわかりにくい会話のハシバシから推測すると、
どうもレイキャヴィークの教会には日本人の有名な聖職者がいるらしく、
連中はその人と俺を引き合わせようとしてくれているらしい。

俺は別に2ヶ月程度の外国旅行で日本人と会いたいとは思わないんだが…。
だがまぁ、外国人と知り合った時、その同じ国の人と引き合わせてやりたいと思う気持ちはわからんでもない。

でも結局、その人物はこの教会にはいなかった。
連絡先という電話番号を教えてもらったが、そこまでする必要はまったくない。
気持ちだけ受け取っておくよ。

4人でマーティン宅に行き、また雑談。
そのうちミルコが帰って行った。
これからどうしようかなーと考えていると、あまり口を開かないジェイソンがおもむろに。

「タダで素晴らしいディナーを食べられるところがある。そこに行かないか。」

今度はタダディナーかよ!
うーん、ハッキリ言って俺は食べ物関係に特に興味はないんだが…。
でもマーティンも行くと言ってるし、他にやることもないし、まぁいっか。