風の線、花の雨
雨予報の福島。
今日はきっと、雨雲との熾烈なチェイスになるのだろう…、なんてニヒルに考えていたら、
福島市のネットカフェを出た瞬間にはもう降っていて、いきなり敗北する俺であった。
しかしまだ霧雨レベル。カッパを着るほどではない。
東北でも北に行くほど降水確率は下がるようなので、こりゃもう走って逃げるしかないな。
雨に追われてさっそく走り出したものの、気になるのは桜だ。
昨夜は暗くてよくわからなかったが、山を越えて福島県に入って以降、急に桜が咲かなくなったっぽい。
昨日の栃木まではほとんど満開か、散り始めぐらいだったのにな。
いやーしまった。
どうやら予想よりもずいぶんと早く、桜前線ってやつを追い越してしまったらしい。
近畿、北陸、関東と来て今は東北。
特に意識していたわけでもないが、俺は桜の開花地域をリアルタイムで出たり入ったりしているようだ。
こういう体験もなかなか珍しい。
しかしこの辺はほんと咲いてないなー。
お、あった。
川沿いに2本だけ満開の桜が見える。
颯爽と接近し、バイクを並べて写真を撮ろうとしていると、背後からおもむろに声がかかった。
「それはアンズ、あれはウメ。」
近所の家からじいちゃんが出てきて、解説してくれるのである。
それで、え?アンズとウメ?どっちも桜じゃないの?
桜ならウチにあるよ、と庭に招き入れてくれるじいちゃん。
鮮やかなピンク色の花だ。へー、これも桜なのか。
でもさっきの白っぽい花はアンズとウメ。
うーん植物は詳しくないのでよくわからん。
こりゃ北陸あたりで早咲きの桜を発見!なんて撮った写真も非常に疑わしくなってくるな。
今さら気にしないけど。
雨は降ってるような降ってないような。
しかし北の方角の空は明るい。呼ばれているようだ。
よし、呼ばれてあげようじゃないか。
さっさか走って仙台。
桜はいよいよ咲いていない。
南から桜前線と併走するには、バイクは速すぎるようだ。
じゃあどんな乗り物が最適なんだろうな。
やはり徒歩か、また一輪車?
五体投地でジワジワ競り合うのも見てみたい。(やりたくはない。)
ここらで、ちょうど東北家族旅行に出ているハズの、えふぅさんに連絡を取ってみる。
おぉ、平泉にいるらしい。
ここから北に100キロぐらいか。2時間ぐらいで行けそうな気もするな。
おっとバイクを止めてると雨が降る。さっきからずっとこうだ。
そうか。やはり雨雲は、俺とのチェイスを楽しみたいらしいな…。ニヒル復活。
平泉。
奥州藤原三代で有名な…というよりピカピカで有名な中尊寺金色堂のあるところ。
ちなみに俺の半生における数少ない自慢は、
これまで平泉の前を何度も通ったのに中尊寺金色堂を拝観したことがないということ。
『有料の寺なんか見てたまるか!』がスローガン。
ところで、えふぅさん一家は『毛越寺』というところにいるらしい。
思わずケゴシデラと読んでしまったが実はモウエツジか、と思ったら本当はモウツウジらしい。
読めるかそんなもん!
その毛越寺の門前にて、えふぅさん一家と再会。
父母に2女2男の家族6人はあいかわらず健康そうで、
それぞれ鮮やかな固有カラーの服を着ているのが戦隊モノのようでおもしろい。
きっと旅先などではこのコーディネートがもっとも大家族を管理しやすいのだろう。さすがである。
家族の皆さまが毛越寺(しつこいようだがモーツージ)を見物している間、
門外でえふぅさんと缶コーヒーミーティング。
これから数日かけて東北の海側を回るそうだ。
仕事に加えて子どもたちの卒業・入学で大変忙しい合間を縫ってでも家族全員を旅行に連れていく!
彼のこういうところは大好きである。
世の中には本当に、いろんな家族のあり方が存在するものだ。
さて、2人で缶コーヒーを飲んでいるうちに、また雨が降ってきた。
おっともう追いつかれたか!またすぐに引き離してやるぜ!ってことで、えふぅさんに別れを告げて出発。
よし。今回も金色堂には入らなかった。
盛岡。
雨はおそろしく正確に、俺がバイクを止めると降る。しばらく走るとやむ。
岩手の方言で、おにぎりのことを『にぎりっこ』というのは一昨年学習した。
そして今回は、船のことも『ふねっこ』ということを新たに確認。
いや、ホームセンターで喋ったおっちゃんに「おぅ、ふねっこで行ぐのかー。」って言われたんだよ。
なんでも『こ』って付くのはちょっと可愛くていいよな。
そういや北海道でも動物の赤ちゃんのことを『こっこ』って言うんだが、あれは…二重じゃないのか?
岩手県は素晴らしく長い。
そしてかくなる上は、ひたすら北上するしかない。
実は、今日が雨なら仙台から船に乗ってしまえばいいという考えもあった。
でも結局、今こうして長い岩手を走っている。
これが全てだ。
東北ツーリングって言い出したからには、やっぱ仙台では終われないよな。
常に脳内国会の多数決で勝ったことをやる。
なんて民主主義なんだろう俺。
そして19時過ぎ、青森県は八戸港にチェックイン。
思わずチェックインと書きたくなるのが八戸のフェリーなのである。
八戸港を22時に出航、苫小牧着が翌朝6時。
まさに宿がわり。これぞ伝説の一泊便!って毎回書いてるんだよ俺。フフ。
ここまで来たらもう北海道まで行きますわ、って感じだ。
旅なら旅で、悔いを残さぬように。