4月24日 荒野

 
カニ夫人とレイの家で起き出したら、すでにカニ夫人は家に居なかった。
そういえば昨夜、明日は朝が早いと言っていたな。
あんなにインパクトのあった彼女の写真を撮り逃したのはとても残念だ。
 
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カニ夫人は居なかったがレイはいて、
クルマでキングマン郊外の自宅からルート66まで送ってくれるのであった。
 
レイは俺の旅を、アドベンチャーだ、すごいことだ、とさかんに褒めてくれる。
クルマはホンダだし、カワサキのバイクも所有している彼。
あまり話す時間はなかったが、もっと余裕があればそこそこ気の合う会話ができたかもしれない。
ありがとうレイ!
 
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おおー、ここは素晴らしい路肩があるな!
どうせ長続きはしないんだろうが…と思ってたら、やっぱりしなかった。
あいかわらず掴まって乗れるような物体もないし。
俺の写真を撮るためにトラックから降りてきた兄ちゃんに写真を撮らせてあげ、
かわりにトラックの荷台を使って乗ったことは言うまでもない。
 
さて、キングマンから先は、ルート66を経由してとりあえずセリグマンという町を目指さねばなるまい。
I-40なら一直線の道のりも、このルートだと結構な大回りだ。
 
 
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走り始めてほどなくのところでガソスタを発見。まずは水と食料の補給だ。
ちなみにこの店の黒人のお姉さんはなんだかエキゾチックな顔立ちの美人さんである。
ヒスパニック系やネイティブインディアンらしき人々はたまに見かけるが、
このあたりで黒人はちょっと珍しいような気がする。何か理由があるのかもな。
 
ちょっとした市街地を経て、ふたたび荒涼とした大地に戻って来た。
とはいえ、店と店の間隔はもうモハベ砂漠ほどではないだろう。
2ガロンクラスの水を背負わなくていいというだけで相当に気が楽だ。
しかし、ケガをしている左足の裏はやはり痛い。2日もベッドで休めたのにまるで治る気配がない。
歩くよりは一輪車に乗っているほうが痛くないのでできるだけ乗りたいのだが、
乗車に使えそうな段差と言えば、たまに見かけるガードレールや橋の欄干ぐらいのもの。
どうにかしていつでも簡単に乗れる方法はないものか…。
ってところで目についたのが、机に乗っているプリングルズの缶。
ひょっとして、こいつを踏み台にして乗れないか?
 
試してみた。
一撃で潰れた。
 
一見丈夫そうなプリングルズの缶も、
人間が乗っかるだけならまだしも、ジャンプする負荷には到底耐えられないことが判明したよ。
 
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それなりに路肩が続いてくれたりもするこの道。これだけあってくれれば随分助かる。
 
それはそうと、今日は本当にハーレーをよく見る。それも何十台も連なるハーレー軍団たちだ。
同じルート66でもモハベ砂漠よりこっちのほうが、はるかにハーレー目撃率が高い。
途中にはハーレー乗りが集まるらしいカフェなどもあったことだし、
彼らにとってはまさにここがルート66、いわば聖地のような場所なのだろう。
しかしピカピカのハーレーが爆音を轟かせて走る光景も、あまりにも見すぎるとさすがに飽きる。
 
それにしても、彼らのハーレーはどれも漏れなくピカピカだ。
そしてライダーは年配の人がほとんど。
そこにはもう、フロンティア精神を感じることはできない。
それはもはや、ノスタルジィの領域なのかもしれない。
 
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モハベ砂漠とそんなに距離は離れていないのに、ここはあの砂漠とはまた違う世界だ。
 
植物が多少は生えているし、テーブルのような特徴的な岩山があちこちにある。
それでいてやはりどこか不毛な印象。
これはつまり、荒野だ。
 
俺は砂漠から荒野にやって来たんだな。
今にも頭に羽根をつけたインディアンが現れそうだ。
 
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打ち捨てられた古い重機。
 
クルマで旅行中らしき変な写真好きに出会う。
俺は歩いていたのだが、どうしても走っているところを撮りたいと執拗に頼んでくるので、
やむなく坂の頂上から大きな石を踏み台にして乗車。
なんだかいろんな角度から複雑にパシャパシャと撮っていた。変なヤツだ。
 
彼はクルマに乗っていけよと言ってくれたが、ありがたくも断る。
今日は風向きもよく、走れる日だ。こんな日には走らないでどうする。
 
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50キロほど進んだあたりで本日2回目のガソスタ休憩。
これまでの区間ですでに3つ店があった。やはり砂漠ほどの大荷物は必要なさそうだ。
 
しかし、食費が結構かかっているのが少し気になる。
朝とこことでそれぞれ1000円分ぐらいずつ使っている。
そしてその半分以上が水代だ。
同じ水でも昨日ブルヘッドシティのスーパーで見た値段との差がなかなか強力でゲンナリするが、
水と食料にかける費用だけは削れない。
高い値段でも需要があるから高いんだよな。
店が存在してくれてるだけで充分ありがたいってことだ。
 
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ユニークな入口のガスステーション。
やっぱりこのあたりがハーレーダビッドソン=ルート66っていうポイントなのだろう。
 
でもまあなんというか、なんにもないところだよ。
一輪車なんかで走っているから、爆音で不安をかき消すこともできやしない。
 
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潰れたモーテルの名前がオーランド。
奇しくも今回の旅の目的地の名前だ。
 
こんなところでオーランドが出てくるのはいくらなんでも早すぎる。
オーランドはフロリダ州だからな。
これからあと何マイル、何日かかるのか。
見当もつかない。
 
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 どう見ても星型に見えるよな。
 
昨日の強力な向かい風とはうってかわって、今日はいい風に背中を押してもらっている。
風はいつも中立だ。
この道は傾斜もラクだし、風も味方してくれるとなると距離も稼げる。
 
ちなみにこのあたりは、ちょうどあのグランドキャニオンの真南あたりだろうか。
例によって観光地には興味がないのできっとグランドキャニオンにも寄らないことだろう。
俺の心境がグランドキャニオンだしな。
 
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日没とともに休む。
 
本日のラストランで、一輪車のハブとクランクを繋ぐ重要なボルトがまた緩んだ。
旅を始めてからすでに何度か緩んでいるが、今日に至っては午前と午後で2回も緩みやがった。
これは非常に困る。
走行中にクランクがペダルごと脱落したら危険だし、ボルトだけ脱落されたらきっと気がつかずに紛失だ。
どこか大きな街に着いたらネジロック剤を買う必要があるな。アメリカならたぶん手に入るだろう。
 
今日の走行は78キロ。久々にそこそこ進むことができた。
しかし、道路状況や風向きの良かった今日でも78キロどまりか。
36インチユニのスピードに期待してアメリカ横断を始めたのだが、そんなに速くは進めないのかな。
これからの進化に期待するしかない。
 
テントの中で寝ころんでいると、どこかから遠吠えが聞こえてくる。
あれがコヨーテだろうか。
スコットいわく、人は大きすぎて襲わないそうだから、BGMぐらいに考えておこう。
荒野の夜は、少し冷える。