ベストベスト

3年ぶりに母国日本に帰ってきたぜ!

というわけだが、実はわりと地味な活動に終始している。各種事務手続きとか健康診断とか。
そのために帰ってきたのでそれでよいのだ。
自販機でジュース買ってコンビニできんつば買って吉野家で牛丼食ったぐらいで大体やりたいこと終わったしな…。

過密スケジュールの一瞬のスキを突き、小学校からラーメンのようにちぢれた細い付き合いをしている友人と会う。
画像では中華料理を食っているが(ちなみにこの量でランチであり、手前の酢豚以外はヤツの食料だ)、
それ以外の全ての時間は、ヤツの駆るBMWで理想のメッシュベストを探し求める作業に集中していた。

メッシュベストというと、釣りのおじさんやアウトドア派の人がよく着ている、アミアミでポケットのたくさん付いたアレである。
俺はバイク便時代の名残りか、あの携帯とサイフと鍵類をまとめて管理できるメッシュベストが好きなのだ。
日本に来さえすればすぐに買えると思っていたのに、一人で近くのホームセンターや衣料品店をのぞいた時は無かったんだよな。

そこでまず我々は、大きなアウトドアショップを訪れた。
こういった業態の店はアメリカにはなかなかない。
そして今日本ではアウトドアやキャンプが大流行らしい。つまりここでメッシュベストが見つからないハズがない。
と思ったら無かった。
近いモノはあったが異常に高い。俺が求めているのはもっとこう、質実剛健かつ質素倹約なモノだ。
それなら行くべきはガテン系ショップであろう。
ということで、次は巷で大人気のワークマンへ。しかもワークマンプラスだ。

ここにはメッシュベストはあった。しかし少し違う。
胸ポケットに俺の大き目のスマホが入らないのだ。
あなたにはどうでもよいことだろうが、俺が求めるメッシュベストの条件は、質実剛健、質素倹約、大きい胸ポケット、この3つなのだ。
まさかガテン系でみつからないとは思わなかった。
いや待て、メッシュベストといえば、やはり釣り具屋ではないのか?

そう閃いた我々は、素早くスマホを操って近くの大手釣り具屋を検索し、移動した。
しかしここで、大きな誤算に気づく。
釣り具屋のメッシュベストには、ほとんど全てに浮きが内蔵されている!!
知らなかった…。これでは日常生活で使えない。
でも水場で浮きは絶対に必要だからそれでいいのだ。合ってる合ってる。

まさか、メッシュベストごときでここまで迷走するとは思わなかった。
日本にさえ来ればあっという間に見つかると思っていたあの頃の俺を縛ってやりたい。

しかし、逆境におかれて次第に熱くなってきた二人を止めることはできない。
もう一軒の釣り具屋を探索し失望した後に我々が向かったのは、地域密着型の作業着店だ。
チェーン店ではない、地域密着型。小さいのにどこか威圧的な店構え、そして癖のある品ぞろえ。
ここならメッシュベストはあるに違いない!そして実際にあった!
質実剛健、質素倹約、しかし大きいポケットがない!

本当に何なんだ、なんでメッシュベストの胸には大きいポケットがないんだ?
現代人なら普通この場所にはスマホを入れたくなるだろう?
デザイナーは何をしている!?リサーチをしていないのか!?
俺なんかアメリカで愛用している(がくたびれている)ベストの胸元には自分で大きいポケットを縫い付けてるんだぞ!!

…怒りと焦りを隠しきれない一行が立ち寄ったのが、最初の画像にある中華料理屋である。
このまま俺たちは理想のメッシュベストに出会えないまま無為に時を過ごすのか…。
わざわざ日本に帰省して俺(とコイツ)は一体何をしているんだ…。
いやそもそもおまえは俺と違って別に本気でメッシュベスト探してないよな…。

むろん、ここで諦めるわけにはいかない。
メシを食ってリフレッシュした我々は、近場のショッピングモールへと足を運んだ。
俺たちが中学生の頃に完成したこのショッピングモール。もう築30年以上か。テナントの空洞化も目立つ。
しかし、そんなところになぜか置いてあったぞメッシュベスト!
なるほどわかった、メッシュベストは釣り人、ガテン系、アウトドア派のほかに、シニアの散策用としての需要があったのか!
新しい発見に興奮する二人。しかしもちろん、俺のスマホが入る大きいポケットは付いていない。

これまでか…。
失意にうなだれる中、最後の希望としてヤツの頭に思い浮かんだのが、紳士服店である。
いや、紳士服にはない、あそこにはさすがにないぞ。
俺はそう主張するが、かといって他にいいアイデアもない。
タイミリミットが迫る中、最後の目的地として紳士服の〇山に攻め込む一行。
そこにはなんと、メッシュベストがなかった!
そりゃそうだ、紳士服の青〇にメッシュベストがあったらさすがにビビるわ。

こうして、俺たちの戦いは終わった。
色んな店を8軒(うち1軒中華料理屋)回って、ついに理想のメッシュベストは見つからなかった。
40代の中年二人が地元の町で一体何をやっているのだろう。
おたがい家では仕事や子育てに追われる身だが、旧い友人ってのは時間を昔のノリに戻してしまうんだな。

メッシュベスト?
ネットで買った。

これはもうギリギリである。
来年あたりにミッキーマウスの版権が切れるそうだが、そうなるとこの看板は無事逃げ切ったことになるのだろうか。
次の帰省時にまた確認してみる必要がある。