4月19日(月) 進めない!


夜。凄まじい風だった。
本気でテントがつぶれるかと思った。
フレームがヘニャッヘニャにしなりまくっていた。

そして今朝。めちゃくちゃ寒い。
防寒着を着こんでいてなお、テントを出ると身体が動かないぐらい寒い。

テントを建てる場所は、よくよく考えて決めないといけない。
いくらいい場所がみつからなかったとはいえ、草原のまんなかはよくなかった。

それにしても…。
それに、しても!!

なんか今日、異様に風が強くないか!?

テントを畳むのに一苦労した早朝よりも、さらに、めちゃくちゃ、風が強くなってる!!

強烈な風、しかも向かい風!!

一輪車に乗るどころの騒ぎではなくて、もはや歩いてでも前に進めない。

なんだこれは、なんでまた急に、こんな!?

アイスランドは風の強い島だとは思っていたが、これはもう最凶。
透明な壁に押されて、その場に立っているのもつらい。
押しているユニサイクルが風にすくわれて吹っ飛ばされそうにすらなるのだ。

岩陰に隠れつつ、烈風が弱まる一瞬のスキをついて、少しずつ進む。
効率が悪いどころの話ではない。

まさか、ただの風のせいで、ここまで進めないことがあろうとは。
雨や雪だけではなく、風すらも敵に回ることがあるのか!!

一見すると天気はいいのに、狂ったような風に阻まれ、まるで進めない。
寒いし、イライラする。
こんな異常な風がまた、こともあろうに向かい風なんて。

どうにもならないので、土で盛られた道路脇の斜面にへばりついて隠れる。
こんなアホみたいな風がいつまで続くんだ!?
この状態であと30キロぐらい歩いて次の町までなんて、行けるわけがない!!

道路を一台のトラックが通り過ぎ、しばらくして、戻ってきた。
斜面にへばりつく俺のほうをチラチラ見ていたが、走り去った。

で、しばらくしてまた戻ってきた。

トラックの中から、男2人組が声をかけてくる。
どうやら英語はほとんど話さないらしいので、ジェスチャーで示す。

…風が!!強いので!!おさまるのを!!待ってた!!

すると彼らは、よしわかったとばかりにトラックの荷台にユニとリュックを積み込み、
そして助手席に俺を乗せてくれた。
どうやら次の町まで連れて行ってくれるらしい。

なんか似たようなこと、台湾でもあったなぁ。

乗せてくれたはいいが、やはり会話はほとんどできそうにないので、大人しくしている。
運転手のガタイのいい兄ちゃんが、携帯で電話して何事か喋っている。
ヤーパン(日本)というコトバが聞こえたので、きっと俺のことを話しているのだろう。

重いトラックは強風をものともせず、25キロほど走って、町に着いた。
小さな港がある、小さな町だ。

トラックは町に唯一っぽい鄙びた木造のホテルの前に止まったが、
「どうやら閉まってるらしい。」と言い、次にその近くの食堂に移動した。

「俺たちはここでメシを食う。がんばれよ!」

そんなようなことを言い、2人の親切なガテン系男たちは食堂に入っていった。

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とりあえず町までは連れてきてもらえたが…。
風はいっこうに止む気配がない。
荒れた海の上で船がグワングワン揺れている。

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さぁ、どうする。
この小さな町で泊まろうにも、あの宿が閉まってるんじゃしょうがない。
先に進むか?このとんでもない強風の中を?

しばらくあてもなく町の中をさまよってみるが、やはり小さな町だ。
大したものはありそうにない。

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なんだこの店。
月曜から木曜までは1時間、金曜日だけは2時間だけ営業します。
俺にはそう書かれてるように見えてしょうがないんだが。
スーパーのタイムセールスか!!

こんなやる気の感じられない町にいてもしょうがないのでは…。

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町の入口まで来て、落ち着いてよく考える。

確かにこの町は、小さくてなんにもない。
しかしだからと言って、この強風の中、再び町から出ても、まるで進めたものではないのだ。
風は弱まる気配もない。おそらく今日一日は吹き荒れるだろう。
さて、どうしよう…。

よし、もう1度だけ町の中をよく見てから、それから決めることにしよう。
まだ10時前。時間はある。
それにしても強風のせいで、とにかく寒い。

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高台から町を見下ろす。
が、やはり大したものはありそうにない。
店が1時間で閉まるような町じゃあな…。

それでも、ダメモトで再び宿の前へ。
やはり客はもちろん、他に誰もいないように見える。

諦めて立ち去ろうとした時、思いがけない別の扉から、30代ぐらいの女の人が出てきた。
彼女は宿の人で、泊まれるわよと教えてくれる。
でも俺はここがゲストハウスではなくホテルと書かれてあるのが気になっていたので、

「一番安い部屋でいくらかな?スリーピングバッグ・アコモデーションがあると嬉しいんだけど。」

そう聞いてみると、その部屋もある、3850IKだと。

3850か…。ハッキリ言って高いが、この状況だ。背に腹は替えられん。
ということで、本日の宿が決定。

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あんまり綺麗な設備ではないし、かつ宿の人々が素晴らしく愛想がない。というか無表情。
しかし、この小さな町で、それなりの値段で宿がみつかっただけラッキーか。

とにかく、この異常な強風から、今日は逃れることができるのだ。

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おもしろいことに、あれだけ小さな町小さな町と印象の悪かったこの町も、
落ち着き先が決まって心に余裕が出てきた途端、少し見る目が変わってきた。

ユニサイクルを片手に町をさまよっていれば、
家の2階から少女がカメラを構えて俺を撮り、ついでに手を振ってくる。

1時間だけ営業しているらしい店はスーパーではなく酒屋で、
最初にガテン系の男たちが入っていった食堂が、実は商店も兼ねていた。
でも割高。大体どこでも100クローナぐらいで買えるクッキーが157クローナもする。

よく探せばキャンプ場もあった。
ただしこの強風でマトモなキャンピング生活が送れるとはとても思えない。

商店で食料を買い込み、あとは部屋にこもって、
他にやることもないのでガツガツとクッキーやクラッカーを食いまくる。
さすがに少し食いすぎた。今日一日のストレスをブツけすぎたか。

ちょっと立ち寄るだけのつもりだったこの町に、
まさか泊まることになるとは思わなかった。
金を出して宿泊することに罪悪感すら感じてしまう奇特な性格の俺ではあるが、
これほどの悪天候では仕方がないだろう。

ところでこの町、また読みづらい名前なのだが、
おそらくデューピボーグルって感じの発音だと思う。

ハプンでローザに色々と教わったおかげで、アイスランド語の発音については少しだけ理解が進んだ。
俺が雨で全身ズブ濡れになってたどり着き、雨が上がるまで2泊したあの長い名前の町は、
キルキャヴァイヤルクリステルというのだった。
一定の法則がわかれば、なんとなーくは読めるようになる。
ただ発音は難しいので、それがアイスランド人に通じるかどうかはまた別の問題だ。

夜中にヴァレリオがメールで天気予報を教えてくれた。
明日は晴れだが強風、明後日は雪!
進むならその次の木曜日がベストだろうとのこと。

うーん、悩むところだ。
木曜日に進むったって、この物価の高い町で3泊もしろってのか!?
明日、できるだけ風が弱まってくれればいいんだが…。

今日は最初に10キロほど歩いて、残り25キロはトラックで送ってもらうという散々な一日だった。
夜になっても台風並みの強風はまったく止まない。
でも、今は暖かい部屋の中にいる。こんなにありがたいことはない。
この町に泊まることに決めたのは、今なら確実に正解だったと思える。

最初にこの町に来た時、あれほど悲壮な印象を受けたのは、
結局は俺自身の心身の状態を反映していたのだ。

ペラペラ地図によれば、次の町までは100キロ程度だろう。がんばれば2日だ。

だが、すべては天気にゆだねるしかない。