気持ちの果て
8時過ぎ。
久部良の民宿『はいどなん』を出る。
夜中はアリ事件で大変なことになったが、
それでもちゃんとした部屋と布団で眠れたおかげで、かなり体力は回復した。
これなら元気にラストランができそうだ。
久部良港から西崎(いりざき)を眺める。
昨日の夜、明かりを目標にしてひたすら走った灯台。
それがあの西崎の先端で、日本最西端の地でもあるらしい。
ここから1キロちょい。
もう、すぐそこだ。
昨日はここをパスして集落に向かったが、今日こそは最西端にゆこう。
左に見えるのが昨日コケかけた噂のテキサスゲート、そして馬糞。
ここで、27枚撮りの使い捨てカメラが終了。
でも大丈夫!
こんなこともあろうかと、もう1コ買っといたからな!
これで日本最西端到達の記念写真を、いろんなアングルからたくさん撮ることができる。
そして実際、撮ることができた…のだが。
後に現像に出したところ、
「フィルムが古すぎて、ちゃんと露光されてませんでした。何も写ってません。」
とのこと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
さすがに落ち込んだよ、俺も。
この旅で最も欲しい写真が、残っていなかった。
途中でいくらでも、あってもなくてもいい写真が大量にあるのに。
一番大事な写真だけがない。
はぁ。
それでも俺は、日本最西端に到達した。
日本最北端の宗谷岬から、最西端の与那国島西崎まで、3816キロ。
一輪車による日本縦断の旅は、ここで無事、完結。
パラパラと雨が降ってきた。
西崎からはそう遠くない空港まで走り、与那国島一周を終える。
12時に出発する石垣島行きの飛行機には余裕で間に合った。
与那国島から30分で、石垣島へ。
石垣島から那覇行きの飛行機がすぐに見つかったので、そこからさらに1時間で那覇へ。
那覇から神戸行きの飛行機もあったので、なんとその日の夜には神戸に着いてしまった。
まさにあっという間だ。
縦断が完結したら、すぐに帰るか沖縄で少しのんびりして行くか、悩んではいた。
でも携帯がないのでは何かと不便だし、沖縄で知り合った誰にも連絡がつかない。
そんなわけで、その日のうちに余韻を残すことなく旅を終えたのだった。
カメラ屋に現像に出して1つがダメだったことを知るのは、神戸に着いた直後のことである。
最後の最後に写真がないのは本当に残念だ。
でも、今回も無事に旅を終えることができた。
時間がたてばたつほど、それで良かったと思えるようになってきた。
実は一時はもう一回与那国島に行ってやろうかとも考えたのだが、
今の俺なら、そんな金があれば別の場所に行く。
とにかく最西端には行ったのだし、一輪車で日本縦断も達成できた。
もう何も言うことはない。
言うことがあるとすれば、ありがとう、ぐらいか。
いい旅だった。