6月26日#3 甘いか苦いかオリエント

ラストゥナスからオルギンへと至るこの道。
俺の地図では途中に町など一切ない不毛区間に見えたが、実際は短い間隔に集落ありまくりだ。
今までにないほどの頻度で店もあり、水や食料の補給にはまったく問題がない。
とにかく超甘設定のルート。
これは嬉しい誤算だが、こういう時ほどトラブルには注意だ。
 
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あー、また町だよ。
ピザとコーラとマンゴージュースをゲット。ほんと超甘だな。町だらけ。
旅の最初がこんなんじゃなくてよかったよ。誤解して後でエラい目に遭うところだった。
 
小学校の下校時間だか昼休みだからしく、制服を着た子どもたちがゾロゾロ歩いているが、
彼らは遠くから歓声はあげつつも、やはりなかなか近づいては来ない。
そして寄ってくるのは毎度おなじみのおっさんたち。
またもや一輪車を取り囲んで、あーでもないこーでもないとダベり続ける。
これがキューバなんでしょうねー。
 
それはともかく、20センターボ硬貨は紛らわしい!
1ペソの5分の1だから日本円で1円の価値もない硬貨なのだが、これがまた他の硬貨とよく似ているのだ。
さっきも2ペソクワーノだかのマンゴージュースを買うのにうっかりこれを出して文句を言われてしまった。
 
物価の安いキューバと言えども1ペソ以下の端数が出るような料金表示はいまだかつて見たことがないし、
もちろんそんな微妙な額の買い物をした覚えもない。
しかし!
サイフの中にはいつのまにか、その20センターボ硬貨が2、3枚入っていたりするのだ。
どこかでオツリをチョロマカされたのかもしれない。
そんなことはどうでもいいのだが、ほとんど使い道のない硬貨を、
できるだけ軽量化したい一輪車でわざわざ運搬している状態が癪にさわる。
おのれ、どうしてくれようか…。
 
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ほい、ピザは折りたたむ!もう慣れた。
そのうち日本でもやってしまいそうなのが怖いが、おそらくそんなことはない。
外国でも1ヶ月程度の滞在では慣れ親しんだつもりの習慣も骨肉化まではしないものだし、
日本に戻れば戻ったであっさりと日本文化に順応してしまうのは何度も経験している。
むしろ、人間のそういった柔軟性がおもしろい。
 
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キューバでお気に入りのこの樹。火炎樹と言うそうな。
俺にとっては、これほどキューバにいることを感じさせてくれる植物はない。
見た目も鮮やかだし、木陰の涼しさも文句なし。
馬車がパーキング状態に入っているのもよーくわかる。
 
それにしても本気で町ばっかりだな。
一つの集落を出てしばらく走るとすぐに次の集落があるという感じで、
日本の農村地帯の国道を走る感じに近い。ここまで頻繁だとかえって落ち着かない。
こまめに店があるのは嬉しいが、こうチラホラと家や人間がいるとそれはそれでちょいとめんどうなものだ。
 
あぁ、言ってるそばからまた町だ。
しょうがない、またそろそろコーラ休憩といこうか。
コーラばっかり飲んでるせいでそのうちコーラで溺死するかもしれない。
え、コーラはない?
それじゃ、ナランハ(オレンジ)のジュースでいいよ。
 
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店先に座りこんで、オレンジジュースを飲みつつボンヤリする。
大した品揃えがないこの雑貨屋でも集落では重宝されているのだろう、チラホラと客が来る。
 
隣の家から走ってやって来た委員長タイプの女の子が何やらお菓子を買い、
お釣りとして3ペソ札を貰ったことを、この俺は見逃さなかった。
ツンとした彼女が俺に意識を向けた一瞬を狙って爽やかに声をかけ、ビジネスをもちかける。
 
「やぁ。実は俺、3ペソ札が欲しいんだ。10ペソと交換してくれないか?」
 
彼女はしばらく考えた挙句、なんとか承諾してくれた。
 
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よっしゃ!ついに!ついに3ペソ札ゲット!
長い道のりだった…。
3ペソ札にはキューバの英雄であるゲバラが印刷されていて、外国人には特に人気があるらしいのだ。
俺自身は別に必要ないものだが、ちょっとした土産にはなるだろうと思い、それとなく探していたわけだ。
いやぁ、やっと1枚手に入ったよ。やれやれ。
 
3ペソを手に入れるために10ペソだ。
本当は5ペソでいいかと思っていたのだが、
優等生風で愛想のない女の子が可愛かったので、思わず10ペソと口に出してしまった。
何やってんだ俺。
 
それにしても、キューバの子どもは不思議なほど愛想がない。
外国人は獣だ!ぐらいに言われて教育されているのだろうか。
3ペソと10ペソを交換してくれなんてさぞや変な外国人だと思ったに違いない。
でも俺は嬉しい。
 
しかし、俺が店先でボーッとジュースを飲んでいる間に、少し噂になってしまったらしいのは困った。
知らん兄ちゃんが3ペソ札を持って現れたので、また10ペソと交換してやる。
マズい。こういうのはやり過ぎてはいけない。
素朴な村の人々に妙な知識を植え付けてしまったかもしれない。
休憩を早々に切り上げて出発だ。
 
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急ぐ必要のないキューバの道端で、木陰に涼んでひたすら時を過ごす。
 
いつも旅といえば、アクセク動き続けるようなことばかりしてきた。
たまには滞在型の旅をしてみたいなんて思ってたんだよな。
こういうのもいいじゃないか。
金なんか使わなくたって、これも贅沢。
俺にとってのリゾートだ。
実際には渡航費だけで20万以上もかかってるから確実に贅沢なのだが。
そこは気にしない。
もう来てしまったのだから。
これが今年の俺のリゾート!
 
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夕暮れ間際、またしても道端で寝転んでいたら、向こうからこんな青年が歩いて来た。
彼はオスマーニ君。ナタを持っているのでたぶん草刈りの帰り。
キューバの道を走っていると、草刈り従事者にはやたらと遭遇する。
きっとそういう仕事があるのだろう。おかげで国道の周囲は常に草が刈り込まれている。
そんなことより彼、あまりにもおもしろいTシャツを着ている。
 
英 雄 時 代 !!
 
アニメだろうか。絵柄のクオリティ的に日本製ではなさそうだが。
とりあえずマジメそうなオスマーニ君に、英雄時代の意味を辞書を使って教えてあげよう。
 
彼とは休憩時に遭遇したため、俺がこの一輪車に乗って移動しているとは思っていないようだ。
当然乗るんだよ、とアレコレ説明してやると、なんだか驚いている。
こういうヤツにはモンタと言われる前にモントしてやる価値があるな。
(あなたが乗るのはモンタ、私が乗るならモント。スペイン語豆知識。)
 
で、乗ってみると案の定、目を見開いて驚いていた。
オスマーニ君。なんというか、純朴な青年であった。
 
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ラストゥナス以東はキューバの中でもオリエント地方と呼ばれ、文化や景観も少し変わるらしい。
その辺はまだよくわからないが、人々の俺に対する接し方は少し自然になっている感じはする。

そうだ、さっき快速でユニサイクリングしてたら、巨漢のおばさんに何か言われながら投げキッスされた。
不測の事態である。
これもオリエント地方ゆえなのか。
 
暗くなったので歩いてたら、バイクの人がわざわざ戻ってきて、大丈夫か、故障か、と声をかけてくれる。
やはりオリエント地方は少し違うのかもしれない。
 
さてもう60キロ、このままだとオルギンに着いてしまうよ。
夜になってもあまり涼しくならない。
昼間の強い風に期待していたのだが、残念ながら風は凪いでしまったようだ。
さて今日はどこで夜を過ごすか。快適な場所がみつかればいいが。
 
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暑い夜は外で過ごすのがキューバ流らしい。
もう21時を過ぎてるってのに、外に人がワラワラワラワラ、ペチャクチャペチャクチャ、あーもうイライラする!!
おまえらもう寝ろよ!!
 
理不尽な怒りである。
しかし、疲れて眠くて寝床を探している身としては、ついこんな気分に襲われてしまうのだ。
しまいには寝床探しも面倒になり、
集落の途中あたりに暗い草原を見つけたので、そこでササッとテントを立てて潜りこんでみた。
そしてなんと、そのテントを人にみつかってしまった。
速攻である。
 
そりゃあ人がまだチラホラ歩いている集落の中でテントはマズかった。
おじさん3人ぐらいに囲まれて色々と詰問されるのだが、申し訳ないことに何を言っているかよくわからない。
とにかくここは出て行かねばなるまい。
こういう時、撤収の簡単なテントは便利である。立てる時以上にサッサと撤収し、また歩き出す。
 
あぁ、追い出された。なんという失敗。
やはり立地がまずかった。
寝床の選定はそれなりに慎重にやっているつもりだが、疲れている時など、うっかり甘くなる場合がある。
たしかアイスランドでも1度やってしまった。
現地人の不興を買う。これだけはしてはいけないことだ。
 
だが寝ないわけにはいかない。
さらに進んで、別の場所で再トライ。
今度は冷静に選んだので、そうそう人には見つかるまい。
ここでダメなら俺はもう野宿やめるわ。
 
今日の走行は71キロか。
オルギンはもう目前だろう。
今は少しでも寝て、明るくなる前に動き出すほかない。