7月1日 羅列・断裂

朝6時。
ちょうどいい時間に目が覚めたので、家族に迷惑がかからぬよう、素早く準備してジュリエール宅を出る。
ベッドを提供してくれた若夫婦のダンナは非常に無口なイカツイ兄ちゃんなのだが、
昨夜からずっとさりげなく世話を焼いてくれ、今朝もまた、俺が出て行く気配を察して見送ってくれるのだった。
 
いい家だ。
最上級のお礼をどう表現していいかわからないので、
日本語で「ありがとうございました!」と言って頭を下げる。
 
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さあ、サンティアゴまであと40キロ。
昨日の峠のせいかパルマ・ソリアノの坂のせいか、珍しく太ももが筋肉痛でペダルが重い。
今日の行程が下りメインで助かった。
 
とはいえ、もはや急ぐことはない。ポコポコでいこう。
もうじきカリブ海に再会だ。
 
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通りがかった農業用トラックの兄ちゃんが運転席から顔を出し、
 
「ダー?」
 
と言ってきた。
ダー?意味はよくわからんが、たぶん「乗ってくか?」という意味なんだと推測。
ありがたいけど、大丈夫。
ここから先は、自力で行かないと意味がないんだ。
 
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それにしてもこの辺は本当に山、そして山村。
基本は下っているがアップダウンもちょこちょこあり、最後の40キロには素敵すぎる演出だな。
朝の空気が清々しいのは素晴らしいけど、朝から上り下りは結構ダルい。
 
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南国の高地。
なんとなくパプアニューギニアのハイランド地方を思い出す光景だ。
あそこと違ってさすがに弓矢は飛んでこないだろうが。
 
それにしても、こんな迷ったら出て来られそうにない森林なんてキューバの西側にはなかった。
一言でキューバといってもそれなりに広大なんだな。
あーカリブ海が待ち遠しい。
 
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お、白馬に乗ったおじさまだ。
 
「一人なのか?」
 
ってよく聞かれるけど、そりゃ一人だよ。
そこで「アベ・マリーア!」って言われても。
 
こんな旅って大抵一人でするもんじゃないのか。
同行者がいると思われる方がむしろ不思議だ。
 
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永遠に続くかと思われたアップダウンがようやく下りに収束しはじめた、そんな時。
 
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祝・1000キロ到達。
 
アイスランドでも日本縦断でも1000キロ地点は行程のほんの途中だったのでさほど走った気もしなかったが、
キューバで1000キロも走ってしまうと、もういいとこゴールなのだ。
ここに来るまでが比較的平坦だったことを考えれば結構時間がかかったように思う。
やっぱ暑さのせいかな。
 
ところで。
ようやくの大台達成と同時に、
 
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フレームも折れる。
 
ついに来たか。この時が。
さっきから走行中にやたらギシギシガクガクすると思ってたんだよな。
こうなるともう乗れない。
ムリに乗れば以前補修した反対側の同じ部分も折れ、ユニサイクルの上下が完全分離してしまうだろう。
 
まぁ、むしろ今までよくもってくれた。
あと20キロだ。もちろん歩いて進む。
 
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のこのこと歩いて、やっと小さな集落に到着。
ピザっぽいのとトロピカルフルーツジュースっぽいどちらも微妙な味わいの飲食物を入手。
味がどうだろうが、暑くて水の消費が早い時には貴重な水分だ。
 
それにしても、せっかく下りメインの道なのに歩くとやはり遅い。めちゃくちゃ遅い。
こんな一輪車でもちゃんと役に立ってたんだなぁと今さらながら感心する。
 
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休みがてら、フレームをよく観察してみる。
やっぱダメだなこりゃ。根元からキレイに破断している。
 
マウンテンユニサイクルというわりには大して山を走らず飛びも跳ねもせずに使ってきたが、
長距離&大荷物の酷使というのもフレームに相当な負担をかけるものらしい。
二輪の自転車と違って一輪車はこの部分だけですべての重量を支えるわけだから当然かもしれないが。
 
キューバの前半ぐらいから今にも壊れそうだったのに最後のギリギリまで粘ってくれて、どうもありがとう。
 
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そういえば、今日は日曜なんだな。
日曜なのに道端に人が多いのは、そろそろサンティアゴに近づいてきたせいか。
人のいないところで休んでようやくホッとする。
 
俺はもはやゆっくりと歩いているだけなので人目につきやすく、そうなると当然モンタ野郎も出没する。
でもいざこうなってしまうと、今はちょっとおもしろい部分もある。
 
「モンタ!」
 
と言われたら
 
「ロト!!」
 
と言い返してやるのだ。
あれ、自転車は女性名詞っぽいからロタ?
とにかく、「壊れてんだよ!!」と言うニュアンスを突き返すと、
 
「オオゥ…!!」
 
なんて、さも残念そうな顔をしやがる。
あの憎きモンタ野郎どもに同情される。新鮮な反応だ。
どーだまいったか。
 
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炎天下のなかを延々と歩いて、ついにあと10キロだそーです!
あと10キロ歩けば、水もコーラもビールも飲み放題だ。
しかし今日は暑いな。汗があふれて目に染みる。
キューバでこんな思いをするのもこれが最後と思えば楽勝で耐えられるが。
 
ところで今度はサングラスが壊れた。
サンタクララで買った約500円の安物だが、やはり長持ちはしなかったか。
とはいえ、サングラスが絶対必要なのも今日までだろう。
ちょうど使い切りってところだ。
 
最後のこの局面で一輪車のフレームが折れて、なんだかむしろサッパリとした気分である。
あともうちょい。残りはわずか。
さあ、ラストウォーク、いくか。