7月9日 ピエロだって休むさ

朝が来たか。
フライトの明日をのぞけば今日がキューバ最終日だ。
長い旅、特にハバナ滞在は長ーく思えたが、もう帰るとなるとそれほどでもない気もする。
 
3泊も世話になったジョージ宅ともお別れだな。
荷物をまとめて部屋を出ると、ジョージはいなかったがもう1人はいた。
いずれにせよ今日も上半身は裸。
 
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もう最後だし、このまま写ってくれ!
今はじめて名前を聞いたが、彼はレイモンド。
裸のもう一人であるジョージとは兄弟なんだそうだ。
え、まさかの兄弟!?
でも経験上、英語でブラザーって言われても絶対に血縁とは限らないけどなー。
 
ここはキューバで一番長く泊まった家。
いろいろとありがとう!
2回グルグルと回さないと開かない鍵とか使用注意のエレベーターにも最後には慣れたよ。
 
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カサを出てすぐ、オムレツパンを買って食う。
こうやって買い食いしながら空港までダラダラ歩いていれば、残りの10ペソクワーノも完全消滅することだろう。
 
今は妙に涼しいが、昼になればやはり暑いんだろうな。
空港まではおそらく30キロ程度。焦る理由もないし、のんびりといこう。
今日は最終日だから、チノもモンタも笑って見逃してやる。…できるだろうか。
 
ところで、店の前でパンを食っているだけで、他の客や通りがかりの人々が話しかけてくる。
あ、そうか。
久々にデカいザックと一輪車を持ち歩いているから人々の反応が違うんだな。
ここ数日フツーの観光客だったもので、こういう感覚をすっかり忘れていた。
  
海辺に出てマレコン通りを歩いていると、今度は後ろから声をかけられる。
おやまたか。
 
「アミーゴ!」
 
なんて知らないヤツに言われると実に怪しいものだ。
まためんどくさいのに話しかけられたなーと思っていたが、
だいぶしつこいのでやむをえず話をしてみたら、あれ、彼はちょっと違うようだ。
 
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この人、なんと本職のクラウン(ピエロ)!
彼は一輪車で芸をするのが仕事という、まさにプロなのだ。
惜しい、フレームが折れてなければぜひ乗って欲しかった。
 
今日はオフだという彼。
キューバで自分以外の一輪車乗りを初めて見たことに驚いて声をかけてくれたんだって。
俺もまさかこんなところでキューバの一輪車乗りに出会えると思わなかった。
 
さすがにユニサイクリスト同士、とても話が合う。
ずっと乗ってるとマタが痛いよね!なんてことで笑い合えるし、
キューバで1000キロ走ったらフレームが折れたという話も深く理解してくれて、
一輪車といえばせいぜいモンタぐらいしか言われなかったこの国において、こんなに嬉しいことはない。
 
「壊れたモノは、キューバだと溶接して直すんだ。日本じゃ捨ててしまうんだろう?」
 
さすがはキューバ人。
言っていることはその辺のクルマを見ればよーくわかる。
 
「いやいや、俺は直すよ。大事なモノを簡単に捨てたりはできない。」
 
そんな彼と、ガッチリと握手。
これはたしかにアミーゴと呼んでもさしつかえないレベルなのだ。
最後の最後でやっと実のある会話ができた気がする。
それはそうと、当たり前だがピエロにもオフというのはあるんだな。
 
そんな時。
本当にどこから出現したのか、談笑する俺たち2人の前にまたしても警官がやって来た。
理由はもうわかる。
地元の人間と外国人が話をしているからだ。
 
でも今は夜でもないし、俺はザックと一輪車を抱えている。
そして彼はクラウンで、話が合うんだ。アミーゴなんだよ。
 
あの時と違って今度はきちんと状況を説明することができた。
英語だから大して通じてないんだろうけど、怪しい関係ではないことはわかってもらえたようで、
いかめしいキューバの警官も珍しく笑顔を向けてくれた。
 
もうちょっとクラウンの彼と話をしたいところだけど、こうなってはムリかな。
アリョース、アミーゴ!
 
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うーむ。
キューバの治安維持、そして観光振興にかける気合いは相当なものなんだなと改めて気づかされた。
あちこちで道の掃除をしてる人もみかけるし、この街はそれなりに管理されているのだ。
まぁそれにしちゃ汚いところも多いし、観光の目玉もたいしてないように俺には見えてしまうけど。
 
さて、まだ10時前だ。
もうあと24時間もキューバにはいないんだと思うとやっとかーとしみじみ感じるが、それにしてもまだ長い。
どうやって過ごそうかな。
もう帰国というのに数日前からまた腹の調子がよくないのが気がかりではあるが。
 
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そういえば、たしか俺は海外で滞在型の旅行をして、一度じっくりと自分の行く末を考えてみたかったんだよな。
今回はまさに絶好の機会であったわけだが、結果はこのとおり。
いつもどおりにひたすら移動して、念願のリゾートではやることがなくなって。
 
じっとしてられない性格なのかねえ。ひきこもりは得意なんだがな。
部屋にいても携帯でゲームしてるだけだし。
せっかくインターネットも日本のニュースもない場所にいるのに、やることは日本にいる時とあまり変わらない。
まったくなんて海外旅行だ。
 
しかし今日も暑いな。
最終日に雨に降られるよりはよほどいいけど。
  
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小さなカフェテリアでちょうど10ペソのハム挟みパンを買い、これにてペソクワーノ完全終了。
実に長い道のりであった。
せいせいする一方で、これでもうキューバで庶民的なモノは買えないんだと思うとほんの少しだけ寂しい。
 
キューバではいろんなモノを食ったよなぁ。
ペソクワーノ問題さえなければ、グルメでもない俺がこれほど屋台メシに手を出すことは決してなかった。
 
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おっ、こんなところにホンダが!
排気量はわからないが車種はCBRだな。
 
ヨシムラマフラーなんて付いてるところを見ると日本から輸入した中古車なのだろう。
すごいなーと思う反面、タイヤとか消耗品はどうするんだろうと変なところが気になる。
まぁそこはキューバだし、なんとかするんでしょう。
あ、よく見るとナンバーが付いてない。
 
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空港までの看板を発見。どうやら道は合っているようだ。
 
目的があって、目的地まで進む。
やはりこうでなくてはな。
時間がありあまったから歩いているのだとはいえ、タクシーでひとっ走りなんてもったいないところだった。
チノもモンタもやっぱり言われるけど、状況次第で適当にあしらいつつ、ゆっくりと歩いていくよ。
 
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でも、あっつー。
この島にも一ヶ月ぐらいいるが、暑さというのは基本的に慣れるようなものではないと思い知る。
 
空港へと至るこの道。
キューバに来た日の夜に女の子たちと一緒にタクシーで走ったのときっと同じ道なのだろう。
今、そんな印象は全然ない。
同じ道でも状況が違うとこうも変わるものだな。
思えばあの時は、彼女たちのスペイン語がまったくわからないことにひたすら困惑していた。
そして今はただ、暑いのみ。ノドも乾いてるぞ。
 
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これは別にキューバに限ったことではないが。
今の時代、金さえ払えばどこの国でも快適な旅や暮らしができる。
金を積めば積むほど、現地や現地人との間で不快な思いはしないことだろう。
だが俺は金持ちじゃないし、今のところそんな豪勢な旅をしたいとも思わないので、
旅といえば気づけばいつもこんなカタチになっている。
 
見よう見まねで現地人の間に分け入り、かといって溶け込むでもなく、異様な存在のまま終わる。
 
これがどういうことなのかというと、よくわからない。
自己満足の追求ではある。
ただひとつ思うのは、こういった切り口から旅をし、その体験を語る人間はそれほど多くはないだろうということ。
こんな情報からでも何か有用なものを汲み取ってくれる人がいるかもしれない。
 
せっかく30万と1ヶ月という貴重なモノを費やしてここまで来たのだ。
そこに何か残せるものがあり、誰かに役立ってくれるのであれば嬉しい。 
  
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空港まであと6キロだって?
じゃあカサからたった24キロ歩くだけで到着ってことか。
想像よりもだいぶ短いな。
 
ハバナから空港までは人によって28キロとか35キロとかいろんな情報があったが、
まさかそのどれよりも短いとは思わなかった。
これでも海に近いジョージの家から意図的に海岸沿いを歩いて遠回りしながら来たのに。
 
これは空港での待ち時間が非常に長くなりそうである。
空港が何時間いても飽きない楽しい場所だったような記憶は、残念ながらないなぁ。