6月30日#2 長い一日 中

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あいかわらず、列車が走っているところをまず見かけない。
音は忘れた頃に時々聞こえることもあるので、運行はしているのだろう。
ただこんな調子じゃ日常の足としては大して使い物にならないんだろうな。
 
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スタートから30キロ地点で見つけたジュース屋にて、マンゴージュースをたて続けに2杯。
うまい。
結局マンゴーは、ジュースにして飲むのが一番うまいのかもしれないと思う。
こうすれば繊維が歯に挟まって苦労することもないしな。
しかし、マンゴージュースはハエのたかりかたが尋常ではないのが難点なのである。
 
これといって誰も賛同してくれたためしはないが、
マンゴーは果物のくせに肉っぽい風味があると昔から感じている。それもどちらかというと魚肉。
だからそのせいでハエが寄るのかもしれないなんてちょっと考える。
 
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サンティアゴ・デ・クーバまではあと90キロか。
それまでには、コントラマエストレとかパルマ・ソリアノとか言う妙にカッコイイ名前の町もあるようだ。
暑くて水の消費は早いが、この間隔で町があるなら大丈夫だろう。
 
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あれ、遠くの雲がちょっと黒い。
カリブ海の上に浮かぶ平坦な島であるキューバでは、遠くが見渡しやすい。
だからここはガンガンに晴れなのに向こうの天気が悪そうだ、というようなことがよくわかるのだ。
あの雨雲は進行方向とは少し離れていると思うが、気にはなるな。
 
40キロ。
カフェテリアとレストランの中間みたいな店でコーラを3本買う。
中でたむろする村人たちの視線が今は面倒だ。
窓もなく開放された店内はハエも多くてイヤなので、さっさと移動して別の場所で休憩しなおそう。
キューバに限らず、旅の間、本当によく思うこと。
連中にとって俺は異質な存在なのだろうが、俺にとって連中は特別でもなんでもない。
ただの町民A,Bである。
何度も同じ話をさせられるのは、こちらが疲れている時には面倒この上ない。
なんでわざわざいちいち丁寧に相手をしてやらねばならんのか。
傲慢ではある。
世話になったり楽しめる時もあるのに確かに傲慢ではあるが、
これもまた人間、というより俺の性格か。
 
幸いキューバ人はしつこくないし、言葉がわからんことを理由に適当に切り上げることもできる。
国によっては外国人と見ればたかられたり、もっと悪いと攻撃されることもあるのだ。
まだまだマシなほうだと考えればいい。
 
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50キロ。
さっきのは、キューバとかキューバ人がどうしたではなく、ただ自分の問題だった。
心身が万全ではない時、なかなか心広くはいられない。
今は精神的には長さと暑さが堪えているし、肉体的には腹の感じが今一つだ。
あいかわらず痛いというわけではないのだが。
 
それと、ユニサイクルのフレームがやはりギシギシと軋んでいるようだ。
あとたった80キロ。もってくれればいいが。
ここまで来ればたとえフレームが折れようともなんとかしてゴールしてしまうだろうけど。
おっと、さっきまで晴れていた雲がゴロゴロと鳴り始めたな。
降るか?
 
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60キロ。
やはり雨に降られる。3キロも歩かないうちに止んでくれたが、一時なかなか強く降った。
この折り畳み傘は日本縦断の最後、沖縄本島最北のコンビニで雨でもなんでもない日に買ったもので、
これがキューバでも大活躍である。
時々キューバの女性が、その傘可愛いわね、みたいなことを言ってくれる。
 
雨上がりに、コントラマエストレという中規模のつまらん町を素通りしてきた。
これと言って何があったということもない。
いつもどおりモンタと言われ、用事がないので買い物もしなかっただけ。
つまらんというのはつまり、今の俺の心身の状態が感想に反映されているわけなのだ。
 
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ガヤガヤした町ではあまりゆっくりも休めない。
どうやら雨雲は去ってくれたようなので、ここで少し休憩しよう。
草がさほど濡れていないのは、近い場所でも雨の降り方に差があった証拠だ。
 
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最近、写真映えの良さそうな雄大な直線というのを探しているのだが、探すとなかなかない。
この辺はキューバらしくもなく、曲がりくねってアップダウンも多め。
それでもやっぱりブレーキを使う必要はまったくない坂だけども。
 
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もう16時か。
今日はあまり食欲もないようだ。
何をどうするか、すべて自分で決める。
思い通りだ。
思い通りだからこそ、自分で決めなくてはならない。
 
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70キロ。
サンティアゴまで、もう半分は越えたわけだな。
だがそんなことより、坂だ。
これまではちょっと上ればすぐ同じだけ下っていたのに、
ここではようやく上りきったら少し下って、またさらなる上り。
そんなことを何度か繰り返していて、ふと気がついた。
 
そうか。
ここ、峠だ。
 
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比較的平坦なキューバでも、サンティアゴの北には2000メートル級の最高峰というのがある。
そこから考えて最後は多少のアップダウンがあるだろうことは予想していたが、
よもやここまでのものがあるとは思っていなかった。
 
一輪車旅における峠越えの苦しみというのをすっかり忘れていた。
やはりこれまで、相当ラクな道のりを走ってきたんだな。
 
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標高を上げるに従い、いつのまにか周囲の植生も変わっている。
見渡しのいい草原だったものが、今や密林に近い。

しかしまあ。
人が汗だくで上っているのに、こんなところにまでモンタ野郎が結構いるのには驚いた。
モンタ野郎や口笛ひとつで注意を向けさせようとするような無礼者はことごとく無視しているが、
これほど多いとさすがにげんなりする。
 
おまえらなぁ、自分でできもしないことを人にさせようとするなよ。
こういう人間にだけはなりたくないもんだ。
でも今では、キューバ人といっても色々いるんだということが少しずつわかってきたつもり。
ここでもモンタ野郎ばかりではない。
無言で手をあげ、その真剣な眼差しで、『がんばれよ!』という意思を伝えてくれる男も中にはいるのだ。
だからもう、気にしない。気にしなくてもよくなった。
 
峠はまだまだ続きそうだ。
あたりはもう暗くなろうとしているのに。