5月8日 前進行
早朝。
テントを撤収し、出発しようと思ったらタイヤの空気が抜けている。
またパンクかよ!ヒイイィィィ!!
イヤイヤながらタイヤを外してチェックすると、昨日換えたばかりの新品チューブに穴が空いている。
昨日の交換時に空けてしまったか、ザックに収納している時にすでに空けてしまっていたか。
タイヤは裏側まで念入りに調べたから何も刺さっていないと思うのだが…。
問題は、この新品チューブが修理不能のタイプだということだ。
知る人ぞ知るFOSSチューブというヤツで、半透明で軽くてパンクにも強いというスグレモノ。
しかし一旦パンクしてしまうと、特殊な素材なので補修パッチが当てられないというコマリモノ。
そういうわけで、昨日まで新品だったチューブはいきなり廃棄だ。無念。
残るスペアチューブは、普通のゴムのやつが2本。まだ余裕があるといえばある。
サッサーと一輪車をバラし、新品ゴムチューブをホイールに組み付けようとしたら。
うわ、入らない。
チューブに付いているバルブの太さが、ホイールに空いている穴よりも大きくて通らないのだ。
これにはまいった。
36インチのチューブならどれでも互換性があるだろうと思い込んでいたが、迂闊だったな。
さてどうしたものか。
手持ちのささやかな道具でできることといえば、
ゴムで覆われているバルブをナイフで削って径を縮めてみることぐらいか。
バルブを破損しないよう慎重にチマチマと周囲を削って、
どうにかホイールの穴に入るか入らないかぐらいの太さに仕上げている、そんな時。
相当にボロいトラックに乗ったおじさんが出現。
どうやら出勤途中か何からしいが、修理中の俺が気になって声をかけてくれた模様だ。
聞かれるまま事情を説明してはみるが、
この状況で通りすがりの人に助けてもらえるようなことはない気がする。
せいぜいクルマで町まで乗せていってもらうくらいか…なんて思っていたら、
おじさんはおもむろにトラックに戻り、荷台から何やら持ち出してきた。
それがなんと、
ま、丸棒ヤスリ!!
金属製の大きな丸棒型のヤスリ。これでホイールの穴を削って広げろというわけだ。
素晴らしい。これ以上ないぐらいのベストな道具である。
さっそく借りて使ってみると、アッという間にホイールの穴が広がり、チューブのバルブもあっさり通った。
すげぇ!!
本来こんな場所に存在するハズのない丸棒ヤスリが、絶妙のタイミングで手に入ってしまった。
このおじさんは一体何者?天使?天使なの?
おかげでパンク修理は完璧だ。
おまけにピーナッツとオレンジまでくれて本当にありがとう!めちゃくちゃ助かったよ!!
それはそうとそのボンネット、そのままでいいの?
パンク修理後はなかなか良い調子だ。
水と食料を買うためにフリーウェイを出て、ひなびた町グルームにやって来た。
休憩なのか外に出てきた店の兄ちゃんとしばらく話す。
彼の英語は聞き取りやすく、久々に会話らしい会話になった気がする。
その点、さっきの丸棒ヤスリのおじさんの言っていることはかなりわからなかった。
同じ地域でも人によって聞き取りやすさが違うというのもどうしたもんだろう。
まぁあの時はチューブの入らない一輪車のホイールをどうにかしようという共通の認識があったので、
言葉が通じるかどうかはあまり気にならなかったんだけどな。
再びフリーウェイに戻って、レストエリアで一休み。
しかし周囲の光景も変わったよなぁ。
西部劇っぽい険しい岩山や荒野がすっかりなくなって、見渡す限りの平原が続くのみだ。
ここからオクラホマぐらいまではずっとこんな感じなのだろう。
真横から撮った写真がないことに気づいて撮ってみる。それだけ。
写真といえば、今日はなぜか知らんがカメラマンが多い。
目立つ36インチユニで走っている最中にカメラを向けられることはしょっちゅうあるが、
今日はなんと数キロ置きにカメラを構えた人々が待ち受けているのだ。
何もない直線でずっと先から路肩にクルマを置いてカメラなんか構えられちゃあ、
途中で下りるわけにもいかんじゃないか。
そんなことが2回連続ぐらいも続くともうそろそろ股が痛いんだよ!
連続で10キロも乗らせんなよ!
連中の望む被写体になってあげるのもなかなか大変だ。
金属缶を使った新生バケットスタートにもだいぶ慣れてきた。
ここからジャンプして、
走りながらヒモで缶を回収し、ザックの横にひっかける。
安全なロングストレートさえあれば簡単なものだ。
缶の強度も今のところ問題ないようだし、これでもうほぼどこででもユニに乗れるようになった。
これまでは乗りたいのに乗れないという苦労の連続だったが、
バケットスタートが完成したことによって、翼を得たぐらいの気分に浸れるというものだ。
夕方。
マクリーンという小さな町で食料を買う。
最近はスナックばかりにも飽きたので、惣菜のようなものがあれば買ってみるのがマイブーム。
これはおそらくブリトーと言うものだが、なかなかうまい。
背後に控えているネオンカラーの2本は毎度おなじみのパワーレードだが、
これはもう最近は確実に飲み過ぎだろう。胃腸が疲れて舌が荒れてきている。
でも町に着いたらこれぐらいしか楽しみがなくてねぇ。
ここで思い立ってタイヤの空気圧をチェックしてみたら、半ばぐらいまで空気が減っていた。
修理した後でもうパンクではないと思いたいが、よくわからない。
もし2日連続で朝からタイヤがペタンコだともう立ち直れないのでぜひやめてほしい。
今日の走行距離は、なんとか112キロ。
よく走ったがしんどかった。
夕方以降はバテてきて、早く陽が落ちないかと願いながら走るという珍しい日だった。
ようやく暗くなってそろそろ寝ようとすると、今度はいい寝床がみつからない。
近頃は町が多くなり農地も増え、日に日に野宿場所探しが難しくなってきているのを感じる。
オクラホマ・シティはまだまだ遠い。