5月23日 メンフィス

  
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朝。テントの中。
 
1人用テントは狭いと言えば狭いが、慣れればどうってことはない。
今回使っているテントはモンベルのULドームシェルター1型というやつ。
持ち運びの小ささ、軽さ(800グラム!)はユニサイクルツーリングにはまさにうってつけだ。
そのためなら狭さや結露のしやすさなんて問題にならないぜ。
 
うーん、それはそうと、最近やたらと背中が痒い。
走行中にガマンできなくなり、ザックを下ろしてひたすら掻き毟るぐらいのレベルだ。
これはやはり、何か虫にやられているのだろうか。
休憩や野宿中に草原のダニに食いつかれたか、
もしくはモーテルのベッドでベッドバグ(トコジラミ)に気に入られたか。
どっちも十分にありうるなー。
  
野宿場所からひたすら直線を走り続けて、ウェストメンフィスに到着。
この町でみつけたアメリカのドラッグストアチェーン、Walgreenで痒み止め薬を買ってみる。
 
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これ。
 
本当は液体の塗るタイプが欲しかったのだがなぜか液体はなくて、
軟膏タイプか、このスプレータイプしか置いていなかった。
スプレータイプの痒み止めってのも日本であんまり聞いたことがないので、ためしにこれにする。
さっそく痒くてたまらない背中に吹き付けてみたところ、
 
痛い!
 
掻き毟ったところに思いっきり染みた…。
でも肝心の痒みは少しおさまったようなので、それなりに効果はあるようだ。
 
ところでこの町、ウェストメンフィス。
ウェストメンフィスの住人には悪いが、微妙な位置関係と言わざるをえない。
 
しかも微妙なわりに町の面積が妙に横長でいつまでも続き、ついでにガラも悪いのだ。
昨日のフォレストタウンに続き、ここでもまた乗れ乗れとうるさい不良黒人たち。
いちいち対応するのが面倒だ…と思っていた時に、ふとキューバでの体験を思い出した。
 
そうだ、この手のヤツらにはノーと言うべし。
 
ノー!と強く言えば、相手が普通の連中であれば、それ以上しつこくしてこないことが多いのだった。
そう、言わなきゃ伝わらない。
相手は、旅人にこんなことを頼んだら迷惑かな?なんて考えない。
だから俺も、相手の要求を断るのは悪いかな?なんて考えてはいけない。
ここもそういう国なのだ。
 
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アメリカのゴミ収集車。
 
道路沿いに置かれているデカいゴミ箱を、機械が自動で掴んで車内に押し込んでいく。
こういうところは日本よりも合理的というか、大雑把というか。
これは後ろで掴むタイプだが、前から掴んで上から荷台に放り込むという豪快なタイプも見たことがある。
 
さて、変に長いウェストメンフィスもようやく終わりだ。
俺はメンフィスに早く着きたいので、この一歩手前の町が余計に長く感じられて仕方がなかった。
これからミシシッピ川を越えれば、そこはテネシー州のメンフィス。
ミシシッピ川を渡る2本の道路はどちらも自動車道なので人力旅行者が通れるのかどうか不安だったが、
南側の州道79号線のほうには川の手前から歩行者用のボロい側道があり、通行OKで助かった。
 
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ミシシッピ川を渡る途中。
シブい写真を撮ろうと思ったものの、鉄橋はグワングワン揺れるし、また背中は痒いしでじっとしていられない。
 
ところでこの側道に入る前、やむなく少しだけフリーウェイを走らざるをえなかったのだが、
そこでパトカーに見つかってしまった。
そのパトカーは回転灯を回して俺を追い越し、
フリーウェイ出口を出たと思ったらクルマを横にむけて出口のまんなかに停車。
出口を塞がれた格好だ。
これはヤバいか!?
俺を睨みつつパトカーの窓を開けた警官は、すっと出した携帯で俺の写真を撮るのであった。
またか…。
アーカンソー州警、仕事しろよ…。
 
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おおっ、川の向こうに謎の三角錐が。
あれがメンフィス名物のピラミッドか。機会があれば近くに行ってみたいものだ。
 
さすがに広いミシシッピ川を渡り終えるとそこはメンフィス。
だが、歩行者用の側道が途切れてしまうと、もうどっちに行けばいいのかわからない。
案内板もなく不親切この上ないのだ。
適当に当たりをつけて進みはじめると、なぜだか工業団地風の場所に来てしまった。
こんなところが観光地のわけがない。
ウロウロしていたら、クルマに乗った黒人のおっちゃんが声をかけてくれる。
 
このおっちゃんはちょっといい人で、メンフィス市街への道のりを一生懸命教えてくれるのだが、
これがまた何を言っているのか非常にわかりにくい。
黒人の英語だからなのか、それともアメリカ南部の方言なのか、とにかく俺が知っている英語ではない。
なんとか要点だけを確認して、ふたたび進む。
 
それにしても今日は暑い。
ひょっとすると体感的にはこの旅で一番暑い日かもしれない。
メッシュジャケットの下はもう汗だくだ。
くすんだ雰囲気の下町を日陰を選びながら歩いて行くと、ようやくビル街が見えてきた。
都会っぽくなったところで最初に目につくのがこれ。
 
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ギブソンの工場。
 
世界的に有名なギターメーカー、ギブソン。
その工場がこんな街中にあるとは驚きだ。
まぁ自慢じゃないがギブソンについて特に詳しくないんだけどな。
 
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中に入ろうという気はまるで起きないので外側から観光。
おー、いろんなギターが置いてあるねぇ。
細かい違いはよくわからないが、とにかく高いんだろうなぁ。
 
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工場のすぐ近くはもう観光地。
実はメンフィスが何で有名なのかそんなに知らないのだが、とにかく観光客が多い。
エルヴィス・プレスリーとかブルースとかなんというかそういうもので有名なのではないだろうかと想像する。
 
俺もせっかくだからエルヴィス像でも拝んで行くかと探し始めるが、場所がわからない。
ちょうどその時、観光アドバイザーらしき女性に話しかけられたので、エルヴィス像について聞いてみる。
が、その黒人女性の説明がこれまた、まったくと言っていいほど理解できないのだ。
なんで?なんで??っていうぐらい、もうサッパリ。
 
しかしとにかく、メンフィスにエルヴィス像は2つある、ということだけは聞き出せた。
1つはもう過ぎてしまったようなので、もう1つの観光案内所というヤツを目指そう。
ますます暑くなるなか、一歩一歩に苦しみつつ、ミシシッピ川沿いにある観光案内所に到着。
 
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おー、いたぜエルヴィス!
一緒に写真撮ってくれよ。
 
なんちゅうかまぁ、これでメンフィスに来た目的はあっさりと達成してしまった気分だ。
 
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ついでだから、詳しくは存じませんが、B.B.キングさんにも写っていただく。
 
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そしてこれ。
 
橋を渡る時から気になっていた、銀色に輝くピラミッド・アリーナ。
メンフィスって名前はエジプトの古代都市が由来らしいので、それでピラミッドなんだな。
 
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このピラミッド、川沿いを歩いているとずっと視界に入ってきてそのうち飽きる。
ちなみに中で何をやっているのかはまるで知らない。
 
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うああ、暑い!今日はとにかく暑い!
 
どこかでモーテルを見つけてから休憩しようと思っていたが、
たまらずガソスタに入って冷たいドリンクを買ってしまう。
メンフィスの街は想像よりもだいぶ広く、郊外にあるモーテルエリアまではまだまだ遠そうだ。
 
そろそろ観光地も離れたあたりで暑さに耐えてヘロヘロ進んでいると、
今度は白人の年配オートバイ乗りから話しかけられる。
いつもどおり一輪車に驚いて話しかけてきたのかと思ったが彼はそうではなく、
なんだかしきりに、ハワイ、ハワイ、と言い続けている。
 
「ハワイ?きれいな島だよねー。」
 
本当に適当にこんな答えを返してみたのだが、これはまったく外れな回答であった。
彼が言いたかったのは、ハワイではなくハイウェイ。
ここからハイウェイに乗るにはどうしたらいいのか?という質問だったのだ。
 
明らかに外国人旅行者である俺に道を尋ねるのもどうかと思うが、
そんなことよりもハイウェイがハワイに聞こえたという事実がショックだ。
これは俺のリスニング能力の問題なのか、それとも彼の方言が独特だったのか。
これが南部の英語ってやつなのかなぁ。
だとしたら、これは相当手ごわいぞ。
 
あー、宿はまだか。
汗が滝のように出るとはまさにこのことだ。
5月からこんな調子でこの先大丈夫なのだろうか。
街の途中に高架のフリーウェイっぽい道路の入口がある。
歩行者禁止的な標識がないのでショートカットのつもりで乗ってみたが最後、ドエライ目に遭う。
高架の途中から路肩が工事中で、本道を歩くハメになったのだ。
しかも工事箇所が終われば、今度は4車線ブチ抜きで道路を横断しなければならない!
 
これは怖い。本気で怖い。
 
アメリカ流のスピードでクルマが大量にカッ飛んでくる高速道路の4車線を、
気合いで渡らなければならないのだ。
いつまでも切れないクルマの群れを睨み続けていると、
もう俺はこのまま一生この道路を渡れないんじゃないかという気がしてくる。
このハイウェイに乗ったのは完璧に失敗だった。きっと歩行者・自転車など論外な道なのだろう。
そうかと言っても今さら遅い。
じっとひたすら待ち続け、何分たったか知らないが、ほんの一瞬のスキをついて全力ダッシュで渡りきる!
あっぶねーーーー!!
そんな危険極まりないフリーウェイの出口からやっと降りたら、次の入口にはこんな標識が。
 
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うおい!思いっきり自転車禁止かよ!!
 
なんだ、アーカンソーに続いてテネシー州もフリーウェイの自転車走行はダメなのか。
どこかでテネシー州はOKみたいなことを読んだ気がしたが、ガセネタだったな…。
こうなると明日からもまた下道を進むしかない。
メンフィスからはフリーウェイを通ってテネシー州の州都ナッシュビルを目指すつもりでいたが、
ルートを大幅に考え直す必要がありそうだ。
 
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フリーウェイ入口の近くがモーテル街になっていて、今日はその中でも安そうなここに決めた。
メンフィス・イン。
決めた理由が値段と名前であることは言うまでもない。
 
この宿に入る直前、パトカーに止められてしまう。またか。
呼び止めたポリスが何を言うかと思えば、「大丈夫か?」それだけ。またか。
あいかわらず名前すら聞いてくれないぜ。
日本縦断の時ですら警察に職質されて免許証を見せたことが何度かあったのにな。
そっちこそ大丈夫か?
ここで会話するついでに、「テネシー州は一輪車でフリーウェイを走っていいのかな?」と聞いてみると、
明確に「NO!」と答えられてしまった。
ポリスにダメと言われちゃあもうしょうがない。テネシー州も下道バリバリ走行に決定だ。
 
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名前で選んだメンフィス・イン。
 
看板には一泊40ドルと書いていたのに、いざ受付に行くと55ドルであった。
なんじゃそりゃ。金曜日でダブルの部屋しか空いてなかったせいか?
まあいい、俺はとにかく外の暑さから逃れたかったのだ。
モーテル最高ー!
 
今日の暑さがよほどこたえていたのだろう。
すぐ近くのコンビニで買ってきた3リットル入りのリンゴジュースを、なんと一気に飲んでしまった。
自分でも一気にいくとは思わなかったが、飲み始めると止まらなかったのだ。
まさに異常事態。
それに輪をかけて異常なのは、その直後に襲ってきた下痢である。
不思議なことにまったく痛みのない、大量の液体下痢が延々と水鉄砲のように噴射される。
これはもうどう考えても、さっきのリンゴジュース3リットルがそのまま出てきたとしか言いようがないのだ。
こんな体験は生まれて初めてである。
痛くないので極めて冷静に事態を観察し、考察してしまった。
いやー、人体ってすごい。
 
液体下痢の噴水がようやくおさまってきた頃、今度は一輪車のパンクを発見してしまう。
四輪タイヤに使われる細いワイヤーが突き刺さっている。どこかの路肩で拾ったのだろう。
はぁ、修理ってほんとめんどくさい。
最近パンク修理ばっかりしている気がするな。
 
全てが終われば、あとはもう寝るだけだ。
もう休む。休ませてくれ。
今日の走行距離は60キロ。
広大なメンフィスの市街地を観光しながら突破してきたにしては、意外と走っていた。