情念

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自分を大きく見せることはない。
失敗してもいいから、
ただ、思いつくままに描こう。

そう思った時から、自然と絵が浮かんだ。
宿題その2、おおいた夢色音楽祭のTシャツデザインだ。

鹿児島の夜は賑やかで、遅い。
弾き語りや路上詩人、太鼓叩きなんてのを久々に見た。

俺は次第にTシャツ描きに没頭していくが、
話しかけてくる人はかなりと言っていいほど多い。

Tシャツ広げてすぐに声をかけてきたニヤけたオヤジは、

「絵はいいと思うけど、
字は誰かに書いてもらったほうがいいよ。」

そう言った。
大きなお世話だ。

チャリでおもむろに現れた占いの婆さんは、

「そこは私が何十年使ってきた私の場所!」

とかなんとか言いながら俺に立ち退きを迫った。
引越しするのは結構めんどくさかった。

他には…俺をテキヤのバイトに勧誘してきた謎のオッサンとか…。

その間も、俺はずっと絵に集中していた。
こいつは、どうしてもこの場で完成させたい。

今度は、ボロボロに破れたズボンを履いた青年が話しかけてきた。

彼はスエヒロ君という23歳の無職で、
絵を描いて旅をすることに憧れていたところで俺を目撃し、
思わず話しかけたらしい。

彼は、段ボールに絵を描く。
携帯で見せてもらったが、
上手下手というより、スゴイと思った。
しかもギターもうまかった。
綺麗なメロディだったので、
誰の曲?と聞いてみたら、
この鹿児島のアーケードをイメージして今作ったんだと。
やっぱ、いるんだな。こういうヤツ。

2人で話してるうちに、また来た。

今度はナカムラさんという20代後半の青年で、
職業はなんと、牛の爪切り。
爪切り職人の師匠との仲がうまくいかないらしい。

俺たちは彼の悩みをじっと聞いた。
時々あいづちを打ちながらずっと聞いた。

すると彼は、
俺たちにまずコーヒーをおごってくれ、
後にカップラーメンまでご馳走してくれ、
さらに、今は金がなくてTシャツは買えないけど、
かわりにこれを旅の足しに…といって、
なぜか千円札を渡してきた。

そんなのは受け取れない、と断固断る空気ではなぜかなかったので、
それならと思い、
かつて仙台かどっかで書いた、

『俺の時代が来る!』

というTシャツを代わりに進呈した。