草刈り

ここフロリダでも自粛期間は続いているが、最近はあまりニュースにもならなくなり、人々もいい加減飽きてきて緩やかに元の生活に戻りつつあるようだ。

テニスコートも制限付きで開いたし。大人二人まで、ダブルス禁止でチェンジエンド(コートの入れ替え)も禁止、だそうだが今日はもう早速ダブルスしてる人たちいたなあ。

ニュースにはならないだけで状態は今でも悪いんだろうにな。

 

そんな中でもフロリダの暑い夏は近づき、ついでにハリケーンシーズンも始まろうとしている。

で、そうなると庭の芝が伸びるんだよ。また2週間に1回は草を刈るという大変不毛な作業をしなければならない。やれやれ。

まあ、刈った直後は庭が綺麗になって自己満足に浸り、窓から見下ろして「この庭はワシが育てた。」と悦に入ることもないではない。

 

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 草刈り機で草を刈ると、こうして機械の幅のラインができる。

この光景を眺めながら草刈りをしていると大体毎回のように、北海道の広大な畑を思い出す。

特に、ある農家でバイトをしていた時のことだ。

農園の社長が運転するトラクターの後ろに乗って、肥料や種を蒔く機械を操作していた時のことなど。

 

その社長は本当に気のいい人で、優しくて大雑把でよく冗談を言う人だった。

ある日、トウモロコシの種を蒔く仕事が押して夜中まで続いた時も、俺は社長の運転するトラクターの後ろに乗って二人だけで作業を続けていた。

北海道の夜は光がない。真っ暗で、トラクターのライトだけを頼りに広大な畑をまっすぐ進み、折り返し、また進む。その間俺は、トウモロコシの種子を蒔く量やタイミングを調節しながら種の補充もしたりして、なかなか忙しい。

社長は本当に気のいい人なので、その夜の仕事が終わった後、臨時ボーナスと称して確か5000円をくれたのだった。

今にして思えば経営者としては甘いよな。でもそういう人だったんだ。俺も嬉しかった。

 

そして、社長と二人で蒔いたトウモロコシの種が芽を出した時。怖ろしいことが起こった。

広大な畑の真ん中、1列だけ芽がまったく生えていないのだ。

そう、その列だけ、種を蒔き忘れていた。

畑の1列と言っても北海道のことだ、長さは200メートルぐらいはあったか。さらに言うと1列と言いながらも、トラクターで6列ぐらいを一斉に蒔くので実際は6列分だ。その損害は半端ではない。

間違いなく、俺の責任である。

暗くてよく見えず、疲れもあったのだろう、その1回分だけ種を蒔く操作をし忘れていたのだ。

 

しかしあの社長は。本当に気のいい人なので。笑って許してくれた。内心は相当厳しかっただろう。でもそれを顔には出さず。

臨時ボーナスまで貰っておきながら、俺は…。ただただ、申し訳なかった。

 

そんな社長も数年前に病気で亡くなった。まだ若かった。

俺の中には社長の口癖の一部が移っていて、今でもよく口にしてしまう。ついには3歳の息子にまで伝染した。

それは、「どうもならん。」という、たぶん北海道弁だ。

どうしようもない、という意味で、とにかく使い勝手がいい。社長はこのセリフを連発し、しかも言い方が面白かった。あれは移る。どうもならん。

 

今日草刈りをしていたら、ふとそんなことを思い出した。