旅の風

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停車したクルマから出てきた男性が、コンビニ袋に入ったおにぎりとスポーツドリンクをくれた。
先のコンビニで俺を見かけて、追ってきてくれたらしい。
俺としては、彼が以前からネットなどで俺を知っていたのか、
それとも今日始めて目撃したのかが知りたい。

「どうして俺に声をかけてくれたんですか。」

「自分も旅をしていた頃、いろんな人に親切にしてもらったので。」

あ…、そうか。
それだ。
よく聞く話なのに、そんな気持ちがあったことを忘れていた。
そうだ、そうなのだ。
本当に忘れていた。

昨日の峠で茶店のマダムに教わったとおり、
掛川市から先は、平坦でまっすぐな道が続いている。
静岡の国道1号線の難解なエリアは、どうやらやっと終わってくれたらしい。
少しだけ雨っぽい国道をスイスイと走る。
昨日は早めに終わったおかげか、調子がいい。
箱根以来の太もも筋肉痛事件も、ほぼ完全に収束してくれようだ。

掛川市を抜けて、袋井市、磐田市と順調に進み続ける。
袋井市など、薬局のベンチに座って麦茶の残りを飲んだぐらいの記憶しかない。
磐田市では…ドラッグストアの前で、カルピスソーダを飲み干したことぐらいか。
調子がよくてペースが速い時は、大体こんなもんである。

磐田市の突き当たりには、天竜川。
この長い橋を渡れば、そこは浜松市だ。

浜松と言えば、ツイッターで一輪車に関する情報を猛烈に発信しまくっている、熱心なユニサイクリストがいるハズだ。
今回の一輪車旅にも興味を持ってくれて、確か俺が浜松に来たら探しに来るようなことを言っていた。
しかし、この広い浜松の国道1号線上で、どうやって俺をみつけるつもりなのだろう。
一番確実そうな天竜川の橋の終点にそれらしい人はいなかったし、
それ以降も気にはしていたが、一輪車に乗った人すら見かけることはない。
やがて浜松もだいぶ奥地に進み、もうじき浜名湖かというところまで来た。
どうやら遭遇することはなさそうだ。これも縁だろう。
海に近づいたこのあたりの国道1号線は、2車線で立派なくせに、なぜか時々歩道がない。
ただ路側帯が広めなので、集中してそのまま走る。
そんな時だ。
背後から来た軽自動車が俺を抜き去り、ズギャギャッと路肩に切り込んで、
中からバタンと、初老の男性が出てきた。
「しまちゃんって知ってる?」そう聞いてくる。
それは確か例の、浜松の一輪車の人だ。
知っていると言うと、彼はすばやく携帯を取り出して電話をかける。
相手はその、しまちゃんらしい。
携帯を渡されて耳に当てれば、テンションの高そうな女性の声が響いた。
今は一輪車の練習で近くの公園にいるが、これからここに来てもいいかと言うので、
こんな路肩に来るぐらいならそちらまで行きますと答える。

どうやら、しまちゃんは一輪車クラブで練習中。
そして初老の男性は、そのクラブの先生であるらしい。
こちらもまた陽気な先生は、俺をクルマに乗せて公園まで連れて行ってくれると言う。
来た道をそれなりに戻ることになりそうだが、他に用事があるわけでもない。
先生のクルマに重いザックとマウンテンユニを積み込み、クルマは海岸沿いの公園へと向かう。