7月3日#2 そして俺は缶詰の具材

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バスはサンティアゴ・デ・クーバを出発し、各主要都市で停まりながらハバナへと向かう。
バラデロをのぞけば、俺がこれまでたどってきた道のりを逆行するイメージだ。
エクスプレス便じゃないから所要16時間ぐらいだろう。
 
3週間かかって走って来たものを16時間で巻き戻されるのはちょっとシャクである一方、
もっと早く着けるもんなら着いて欲しい気分で胸いっぱいでもある。
なんせ俺は人の多くて狭い場所に長時間押し込められるのが非常に苦手だ。
そんなの誰だって苦手だろうが、俺はその当社比2.7倍は苦手なのだと大威張りで宣言しておく。
 
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サンティアゴ市街を出たバスはまず、オートピスタ(高速道路)を走り始める。
ハバナまでの長い道のり、オートピスタがあるところはそこを走り、ないところは国道を走ってゆくようだ。
 
高速道ならさぞかし快適なドライブだろうと思いきや、あー、これダメ。
高速なのに道が悪くてガッタガタ。
目を開けてるといきなり酔いそうだ。
そして高級バス会社ヴィアスール所有のこのバスは外見こそ綺麗だったが、中身は結構ダサい。
この乗り心地の悪さはバスが中国製だからなのか、それとも路面がキューバ製だからなのか。
いずれにせよつくづく怖ろしいタッグである。
 
しかも車内は予想どおりに寒い。フリースだけじゃなくカッパも着てくるんだった。
うぅっ気持ち悪っ。
ああもう寝よう。せめてできるだけ目を閉じておこう。
 
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これまでキューバ人から好奇の視線を浴びまくってきた俺。
今度は見る側だ。
現実はともかく見た目は優雅にバスに乗っている俺は、もはやモンタなんて言われることなどない。
 
日がな一日家の前でボーッと座っていたりするキューバの人々を眺めながら、
この人たちは何をやってるんだろう、と思い、じゃあ俺は何をやってるんだろう、と考える。
 
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おおっ、上り坂でアストロのバスを果敢に追い抜きにかかるヴィアスール!
やはり料金が7倍高い分、こちらの方が多少は性能がいいのだろうか。
客が少ないだけという可能性も否定できないが。
 
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ここは苦労して越えたあの峠だ。
この坂しんどかったよなぁ、というのはまだ生々しい記憶。
そんなところを腐ってもバス、何事もなかったかのようにあっさりと越えていきます。
これで乗り心地が良ければ爽やかなのに。
 
原因不明の不快な振動がずっと続くのでおちおち寝てもいられない。
唯一の救いは乗客が少ないおかげで2人がけの席を存分に使ってダラけられることぐらいだ。
飽きた。もう飽きた。
 
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17時半。バヤモのバスターミナルに到着。
ここで少し乗客が追加され、また出発。
 
しかしこのバス、バスターミナルじゃなくても人を乗せるらしい。
時々おもむろに停車しては運転手が知人?と雑談したり、人を乗せたりする。
そんなことでちゃんと定刻にハバナに着けるのだろうか。
何時に着くのか今から楽しみである。
 
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アストロの客から見れば、こっちはビジネスクラス並みの高級車なんだろうが…。
ひょっとして向こうはこっちよりもさらに乗り心地が悪いのかもしれない。
 
車内はだんだん人が増えてきて、話し声がうるさくなってきた。
意味不明にピーピー鳴る謎の機械音も耳障りだ。
機械音がやっとおさまったと思ったら、今度は大音量のBGM?が。
修学旅行かよ!!
もう勘弁してくれぇ。
 
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19時半。オルギン着。
ただ座ってるだけなのにすでにグッタリ。
 
なのになんと、ここでなぜか全員バスを下ろされる。
なんで!?
よくわからん。とにかく運転手に促されて仕方なくバスを下りる。
 
下りると、さっそく話しかけてきたおっちゃんがいる。
妙な英語だが多少は意思の疎通ができそうでありがたい。
どうやら、40分ほどしたらまたバスに戻れるとのこと。
ふーん?
イマイチ要領を得ないけど、休憩なんだろうか。
とにかく乗り遅れないようにしないと。
 
そのおっちゃんが何か食べるかと聞いてくるので、
食欲はないからほんの軽くならと言うと、近くのレストランに連れて行かれてしまった。
全然軽くない!
俺はピザで充分なんだと主張し、屋台でピザを買う。
そう、これでいい。
正体不明のこのおっちゃん、チャリタクの運転手だそうな。
俺に何かを求めているのかもしれないが、気が弱いのか、ハッキリとは言い出せない様子。
オルギン大好き!サンティアゴはダメだけどオルギンの人はみんな親切!とか言いまくったせいかな。
ピザをおごってくれぐらいは言われたのかも知れないが、それもわかりにくかったのでスルー。
そのうち家に帰るといって去っていった。
バスから下ろされた理由を説明してくれたし(理解はできなかったが)、ピザぐらいおごってもよかったのに。
まあいいや。
 
そしてバスは40分も待つことはなく、15分ぐらいで再び客がゾロゾロと乗り始めて再出発するのであった。
おいおい、もしあいつの言うままレストランでメシなんか食ってたら絶対置いて行かれてたぞ!!
はー、実に危ないところだった。
なんとかちゃんとバス乗れてよかったよ。
なんせ俺はチケットを持っていない怪しい直払い客だから、バスから下りてしまうのが怖いんだよ。
それにしてもまだオルギンか。
先は長いなぁ。
 
20時半。ラストゥナス着。
今、車内は映画上映中。
おっさんおばさんがやたらと絶叫するコメディ映画らしいが、もちろんスペイン語なのでまったく理解不能。
ただひたすらうるさいだけ。
もうこんな時間なんだし、そろそろ静かにしてくれないかなあ。
 
そんなことを考えていたら、いつのまにか眠れていたらしい。
 
起きたら午前3時。
どこかのバスターミナルに停車しているが、おそらくサンタクララだと思う。
あのルイスがいる街だ。
機会があればもう一度あの居心地のいい宿に泊まってみたいと思っていたが、もういいか。
このままハバナに向かってしまおう。
 
眠ってちょっとは気分が持ち直したらしい。
今まで一輪車でたどってきた道のりや街並みを車窓から眺めていると、記憶を巻き戻しているようで少し楽しい。
ここ通ったなーとか、ここでトラクターに拾われたなー、とか。
 
あともうちょっとこのシートにしがみついていられれば、そこはもうハバナのはず、である。