対馬旅 6月29日 右も左もただの道

 
#島も変わるよ
 
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朝まで深く眠った。
相当に疲れた昨夜だったが、
この素晴らしい新築バス停のおかげで寒さや虫にも煩わされず、存分に眠ることができた。

アルティメットのために荷物を極力減らしてきたとはいえ、
重量物筆頭のテントだけはしっかり持ってきている。
急な雨や寒さ、虫の襲来などでテントが必要になる可能性は常に考えられるからだ。
だが対馬に来てみると、なぜか箱型のキッチリとしたバス停の多いこと。
これはまったく予想外のことで、おかげでこれまでテントの出番もなく、快適な野宿をさせてもらっている。

とはいえ、バス停が宿泊施設ではないのは明白だ。自慢できることではない。
軒を借りて休めたことに感謝しつつ、痕跡などを残さず、
せめて人目につかない時間帯に撤収するぐらいのことは絶対にしておきたい。
 
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佐護の集落。
明るくなって初めて気がついたが、ここには水田がいくつもある。
対馬で水田なんて初めて見たかもしれない。ここでは米ができるのだ。
なぜこの集落には水田が多く存在するのか。それはこの土地が平坦だからだ。

おおっ、対馬なのに平らなところがある!

こんな妙なことに驚いてしまうのは、俺が対馬に来てもう4日目だから。
これまでいかにアップダウンに苦しめられてきたかがわかって我ながら泣けてくる。
 
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今日は国道382号線をただひたすら南下する行程になりそうだ。
途中でいくつか集落もあるし、それほど心配な点はないだろう。
調子がよければ豊玉(とよたま)町の仁位(にい)という大きな町まで行けるかもしれないが、
まあそこまでは期待するまい。

今歩いている道は見てのとおり、キレイにまっすぐの上り坂。
しかしここも他と同様、数年前まではグネグネの峠だったようだ。
 
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修行さんご夫妻に持たされて愛用しまくっている観光地図によると、今このあたり。
点線の部分が新しくできた爽やかバイパスで、ドウ坂ってのが旧道。
地図で見るだけでも苦労のレベルが違うのが一目瞭然。

このあたりは細い対馬にしては海から離れ、おそらく国道382号でもっとも山深いエリアだろう。
なんでって、近くに原始林はあるわ、いろんな動物の絵はあるわ。
ヤマネコはともかくキジとテン(イタチかも)は見たな。
オジロワシかどうかは知らんが、猛禽類は今もそこらでしょっちゅう飛びまわっている。
 
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いかに爽やかバイパスでも、足を痛めつける長い上りと下りがなくなるわけではない。
地下足袋の足裏にとっては上りよりも特に下りのほうがダメージがデカいようだ。
これでも歩き方はいろいろと工夫しているつもりだ。
タイヤを担いで異様な歩き方をしている不審人物を見かけてもそっとしておいてほしい。

さて、ようやく仁田という町に来た。
トゲトゲした山の間を縫うように伸びる道。山間の集落という表現がしっくりとくる。
 
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大きめの集落にはたまにあるこうした商店が、一息つくにはちょうどいい。
こうした店は一昔前まではもっと貴重な存在だったのだと思う。
今では対馬の道も良くなった。クルマで飛ばせば厳原も比田勝もそう遠くないだろう。
クルマで飛ばせばね。

ああ、暑い。足、痛い。

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ここだけ見ると平野の稲作地帯にすら見えるな。
今まで集落を抜ければ大体常に上ってるか下ってるかのどっちかだったので、
こうして平らな道路がずっと続いているとなんだか不安にすらなってくる。

ところで今日は朝から、たまにバイクを見かけるのだ。
それも大きなヤツ。何台かでツーリングをしているような。
なるほど、今日は土曜だからな。
そしてバイク好きな俺にはわかる。走っているのは国産車だ。
つまり、博多あたりから船に乗ってツーリングをしに来ているのだろう。

そうか。対馬はバイクツーリングもできるんだな。
たしかにバイクなら一日で一周して日帰りも可能かもしれない。手ごろなツーリングコースだ。
もちろんどこかで一泊してうまいものを食い、翌日に帰るという手もある。
へー、俺が知らなかっただけで、
こんな風にして九州のライダーは対馬まで時々走りに来るのかもしれないな。

俺も人力一周が終わったら次はクロスカブでもう一周だ。
待ってろよ無数の坂!ガソリンパワーで蹂躙してやる!

#なんでも答えます。
 
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今日はどうにも暑い。
少しの木陰をみつけては潜り込み、ザックを枕に横になってしまう。

はぁ。
天気はよく。緑は美しい。
こんないいところで昼寝なんて、考えてみれば贅沢極まりない。
ああ、そうだな。
俺は思いのほか、贅沢な経験をたくさんしてきているのかもしれない。
今も昔も金はないんだけど。

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長いトンネルの手前にある小さな石仏。

想像するに、かつては峠の頂点にあったものではないだろうか。
誰がいつ、どんな想いでこの像を造り、この峠に安置したのだろう。

嬉しくも悲しくもないのに、これを見ているとなぜだか一瞬、胸が苦しい。

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見慣れない花。
でも俺が見慣れないだけで、特に珍しい花ではない可能性は結構ある。

今日は不思議と道端のいろんなモノが目につくようだ。
足の裏はあいかわらずジンジン痛いのだが、
それも含めて徒歩旅のペースが定まってきたのかもしれない。

思い起こせば、俺の初めての徒歩旅は、今から11年前のものであった。
あれはバイク便の仕事中に事故って小指の骨を折り、バイクに乗れずに休んでいた冬だった。
ずっと家にいるのがヒマで、おもむろに神戸から北上して日本三景の1つ、天橋立めざして歩き出したのだ。
しかしこれがまた。しんどいのなんの。
バイクしか乗ってなかったせいで運動不足だったのか、とにかく疲れ果てた。
11年前だから26歳。今と違って普通の靴を履いて荷物も背負っていないのに、初日からいきなり脚が崩壊。
立ち止まっているだけでも脚がガクガク震えてバンビちゃん状態だった。
それでも途中で拾った棒切れを杖にして4日間歩き、這うようにして最後は天橋立に到達。
帰りは電車で速攻で帰ったという、非常になんともいえない徒歩旅行であった。

あれは一体なんだったんだろうな。なんであれぐらいであれほど疲れ切っていたのだろう。
現在の俺も地下足袋のおかげで足の裏が痛いとはいえ、
まだ杖をついて足をひきずって進むほど落ちぶれてはいない。
それどころか、このペースなら時間さえかければどこまでも歩いて行ける気がする。
あれから年は取ったが、歩く能力に関してはむしろ向上しているということだろうな。

これからも、加齢とともに衰える部分は確実にあると思う。
でもそれは全てではない。
自分自身の何かを成長させていく楽しみは、たぶん老衰で死ぬまで残されているのだ。
その気がありさえすれば。

そんなようなことをボンヤリ考えながら坂を下っていたところ、
目の前から来た長崎県警のパトカーが、あ、停まった。
対馬を歩き始めてから今まで何度かパトカーとすれ違ってきたが、ここに来てついに職質か。
ほぅ。職質マスターの俺から言わせれば、遅いぐらいである。
中からお巡りさんが2人出てきた。よし。

「こんにちは!日本人でーす。」

努めて明るく、挨拶はこちらから。
なお今回は、ごく自然な日本語を意識して。
いや意識するとかえってぎこちないわ、やめとこ。

まずはパンクタイヤではないアルティメットホイールの説明をしないとな。
これはもう慣れているので流れるように鮮やかに。
しかしあれ?ひょっとして俺、まだ何か疑われてる?
メットかぶって地下足袋履いて自転車ホイール泥棒疑惑とか?
そんな斬新すぎるよ。

「ちょっとここで乗ってみてくれませんか。」

うぉ、まさかの警察による試乗要請!
これはあれだな、酒気帯び疑惑のおじさんに「ちょっと息を…」ってのと同じパターンだな。
はいはい試乗ですか。もちろんオッケー!
ちょうどここは緩やかな下りだ。
これで乗れなかったらヤバいなと内心焦りつつも、キッチリ乗ってみせる。
ホラ見ろ、短距離なら余裕なのだ。なんの自慢にもならんが。

これでようやく疑いは晴れたらしく、すっかり和やかモードに。
彼らは以前にも何度か俺を見かけたそうで、今回ついに職質する気になったそうだ。
そうそう、一輪車旅の時も、
俺に声をかけてくれた人は2回以上目撃してからというケースが多かったよな。

ところで、日本のお巡りさんはやはり良い人が多い。
世界一親切かつ丁寧であると俺は思う。
職質も穏やかだったし、疑いが晴れてしまえば非常にフレンドリー。
俺のムリなお願いを聞いて、アルティメットを抱えた写真まで撮らせてくれるのであった。

「ネットとかには乗せんでくださいよ!」

先にクギを刺されてしまったので、この写真は俺の個人的な思い出である。
ついでに、

「対馬は魚がうまかとよ!」

こんなアピールまでしていただいた。
ハイわかりました。
お巡りさんのオススメとあらば、どっかで対馬の魚、必ず食べます。
 
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そんなちょっと楽しいイベントがあったので、その後の足は少しだけ軽かった。
長い坂を下り切ったらそろそろ三根の集落かな。
それにしてもあの家、立派な日本建築である。
正門の横に潜り戸(ていうのか?)まで付いていて、まるで時代劇の武家屋敷だ。

対馬ではこういう古い邸宅をたくさん見ることができる。
デカい家、デカい門、そしてデカいシャチホコ付の豪邸は対馬の集落ごとに1軒はあるように思う。
驚くのは、旧家だけでなくこの手の家の新築バージョンもよく見かけるということだ。
わりと裕福なんだろうか。
こんな家に住む人がどんな仕事をしているのか、ちょっと気になるところだな。