5月10日#2 再会

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パーカー宅を目指してオクラホマシティを進行中である。
 
そういえばパーカーいわく、オクラホマシティの南側は治安が悪いから行かないほうがいいってことだったな。
クルマで降り立ったのがちょうど南側のあたりで、そこからジワジワ北上して今は街の中心地あたりだろう。
どうりでここまでそこはかとなくヤバそーな雰囲気だったわけだ。
パーカー宅へはここを通ってさらに北に行かねばならないが、このあたりもしっかりガラは悪そうだ。
道端の黒人のおっちゃんに何か言われても何を話してるのやらまったくわからない。
一瞬たりとも気は抜けないな。
 
街を北に進むにつれて、少しずつ活気というか、健全なムードが醸し出されてきた。
交差点で信号待ちをしてたら興奮気味の若いドライバーが降りてきて、
俺と一緒にiPadでセルフ写真を撮った上に金を握らせようとしてきたりする。
写真はタダで撮っていいけど金はいらないよ。
ふぅ、こうなってきたらもうフツーの街と変わらないな。危険地帯は脱したかもしれない。
 
パーカー宅はたしか、墓場沿いにあるボロい家とのことだ。
もしわからなければその辺の人に、
『金髪でロンゲのヒッピーの家はどこ?』
と聞けばすぐにわかるとヤツは妙な太鼓判を押していた。
 
うんざりするほど北上し、しかもちょっと行き過ぎて、ようやく彼が住んでいるであろうストリートに到着。
ここまでは街中をほとんど歩いてきたが、華麗な登場を演出するためにはやはり乗るべきだろう。
人んちのポストを利用して36インチユニに跨り、ストリートを颯爽と走る。
 
ヤツの家は、探すまでもなかった。
 
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閑静な住宅街の端っこで、若者たちがやたらと集まって騒いでいる家。
その輪の中にあのパーカーがいる。
いきなり現れたユニサイクルツーリストを見て若者たちが呆然とする中、
彼は眩しい笑顔を浮かべながら歩いて来て、ガシッと俺を抱きしめる。
 
「やあ!最高のタイミングで来たね!」
 
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ついにパーカー宅にたどり着いた俺を待っていたのは、さっそくのビール攻めだ。
左から2番目のメガネの彼が、見たこともない安そうなビールをどんどん勧めてくれる。
彼はネイというちょっと変わった名前。
 
他にもこの場にいる何人もの男女たちが次から次へと自己紹介してくれるのだが、
正直俺のアタマが追いつかない。
とりあえずわかったことは、この家にはパーカーとネイ、それともう1人の3人で住んでいるらしいということ。
それじゃあとの連中はただ遊びに来ているわけか。
そういえば今日は土曜日。週末だから庭でパーティーをしているのだろう。
さっきパーカーが最高のタイミングで来たと言ったのは、そういうことなのだろうか。
 
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それにしても変わった家だ。
すでにボロいとか汚いとかは聞いていたが、実際にはボロいというのとはちょっと違う。
なんというか、サイケデリックな感じ。
庭やバルコニーにある意味不明で怪しげなオブジェは大体どれもパーカーが作ったものだそうな。
ふーん、変なヤツ。
 
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この家は自称ミュージックハウスというだけあって、庭にギターが2、3本転がっている。
せっかくなのでパーカーに何か曲を弾いてもらって、それを動画で記録しよう。
いい感じなら後に作るであろうアメリカ横断旅動画のBGMにするつもりだ。
 
元々はサックスが専門のパーカー、ギターはまだ初心者レベル。
しかし初めて聞いた彼の歌声には何か、聞かせるものがある。
これは結構いいかも。
 
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2曲ほど熱唱してくれているパーカーの演奏を聴きながら、他の連中ともコミュニーケションをはかろう。
メガネのネイはビールがなくなったといって買出しに行き、戻ってくるとサッポロの缶ビールを手渡してくれる。
日本から来た俺に気を遣ってくれたらしい。彼もなかなか親しみやすい人物のようだな。
 
そして右のよく笑う女の子は名前はちょっと覚えにくいのだが、パーカーとは仲が良いようだ。
付き合っているのだろうか?
そんな彼女も俺に気を遣ってか、英語がよく聞き取れない俺に粘り強くいろいろと話しかけてくれる。
 
「歳はいくつなの?」
 
「えーと、今日は何日だっけ?」
 
「日じゃなくて年齢を聞いてるのよ。」
 
「うん、5月の10日か。じゃあ歳は37だよ。明日で38だ。」
 
「え、明日が誕生日なんだ!おめでとう!」
 
しまった。余計なことを言ってしまったかもしれない。
なぜだかパーカーもやたらと喜んで誕生日を祝ってくれる。
 
「よし、今夜はバースディパーティだ!吐くまで飲み明かすぜ!」
 
とかなんとか言っているが、聞こえないフリをしておく。
 
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ギターに飽きたら、今度はおもむろにこんな遊びを始める。
馬蹄投げってヤツだな。
馬蹄(ホースシュー)を投げて棒にひっかける遊び。
みんな酔っ払っているのでロクに棒にかすりもしないが、俺が適当に投げたらジャストミートしてしまった。
それだけでもう皆さん大はしゃぎである。
 それにしてもパーカー、ここでもごく自然に裸足なんだな。
 
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もはや誰が誰だかわからない彼らの仲間の一人をユニに乗せてみる。
いろんなヤツが試してみるが、まあいきなりは乗れまい。
ふふ、優越感に浸れる瞬間だねー。
 
入れ替わりで何人もの若者たちが押し寄せるミュージックハウス。
要するにここは彼らのたまり場なのだろう。
ここで連中と共に酒を飲んだり喋ったり遊んだりしている間に、だんだん日も暮れてきた。
人も少なくなってやっとパーティも終わりかと思っていたら、またパーカーが不穏なことを言い出す。
 
「今夜はキミのバースディパーティだ!外に飲みに行こう!
 真のオクラホマシティを見せてあげるよ!!」
 
うわ、忘れてなかったのか。
まぁしかし、外に飲みに行くぐらいならいいだろう。
そしてネイも加えた3人でパーカーのボロ車に乗り込み、夜のオクラホマ・シティに繰り出す。
まさかこのクルマにまた乗ることがあるとは思わなかった。
いやしかしそれより、コイツ紛れもない正々堂々たる飲酒運転だよな…。
俺自身は日本だろうが外国だろうが飲酒運転など絶対にしないが、
この街でこのメンツだと、なんだかこれが普通のような気がしてくるところが怖ろしい。
環境ってのはつくづく人の一生を左右するんだな。
かくなる上はもう、なるようになれだ。
 
2人が俺を連れて来たのは、飲み屋ではなく、なんとまた別の人の家であった。
どうやら今夜はここでも若者たちが集まるホームパーティが繰り広げられているらしい。
そう広いとは思えない一般住宅に、数十人の人間がたむろして出たり入ったりしている。
ほんとにおまえらどんだけパーティ好きなんだよ。
来るのがホームパーティと知っていれば俺は辞退していたものを…。
 
ここでも恒例の自己紹介攻め&握手攻め。
パーカーやネイが一輪車でアメリカ横断のことを言いふらしまくってくれるので反応はよい。
反応はよいが、話しかけてくれてもその後が続かない。
なんせ何を言ってるかほとんどわからんからな!
 
パーカーたちがタバコを吸いに裏庭に出ている間、
俺は広くもない家になぜか押し寄せている人々をかき分けて外出し、家の周囲を散歩する。
パーカーにならって裸足で来てしまったせいでアスファルトを踏む足がちょっと痛いが、
それでも一人の静かな時間をやっと回復できたことが嬉しい。
そうだよなー、パーティも悪くはないが、やっぱり俺は一人が好きだよなぁ。
知らない人々と次から次へと会話しまくるぐらいなら、一輪車をひたすら漕いでいるほうがよほどいい。
 
土曜の夜の住宅街をグルッと一回りして家に戻ってきたら、
そこではパーカーとネイが俺を一生懸命探している最中であった。
パーティの途中でフラッと消えた俺を心配してくれていたらしい。
これは悪いことをした。すまん。
 
しかし眺めていた限り、この2人も実はあまり賑やか過ぎるところは好きではないと見た。
パーカーは見た目がいいし実際モテているようだが飄々としていて社交的ではなさそうだし、
ネイも日本で言えばオタクっぽい香りがそこはかとなく漂っていてやはり社交的ではなさそうだ。
たぶん2人で相談して俺のためにわざわざこんなところまで出張してくれたのだろう。
 
「ありがとう、真のオクラホマはもう充分楽しんだから、帰ろうか。」
 
そう言うと、あっさりパーティを抜け出して帰ることにする我々3人である。
しかし、この夜はまだまったく終わらない。