ボンネットとクリケット


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トラックをレンタルして運転する用事があった。

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荷台の長さが15フィート(4.6メートル)で全長が7メートルぐらいのタイプだから、日本で言う中型の4トントラックよりもちょっと短いぐらいか。

トラックなんて全然乗り慣れてないけど、いちおう昔北海道で4トントラックにジャガイモを積んでデンプン工場まで運んだことがあるから、まあなんとかなるだろう。
あれは確か美瑛から剣淵までだったから往復で150キロもなかったけどな。
あのデンプン工場の明治時代からそのままっぽいレトロな設備が忘れられない。

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運転席。
フォードのクルマって運転するの初めてかも。

アメ車にまったく良いイメージがない俺だが、乗ってみるとこれが普通だ。普通に動きやがる。
オートマだから運転も簡単。
日ごろ乗ってる乗用車と違って座高の高い俺でも頭が当たらないし、とにかく視界が広くて高いから気ん持ちいいったらない。
これで燃費さえ良ければずっとこのクルマでもいいぐらいだ。

ただ唯一の問題は、後方視界である。
トラックって後ろが全然見えないから慣れないと不安だし、バックするのも誰か見ててくれないと怖い。
流れの速い車線に合流する時なんか、死角が多いせいでこれまた怖いのなんの。
最新の技術で360度見えるようになるとトラックの運転ももっと安全快適になるんだろうな。
その前に人が運転しなくなりそうだが。

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最初からサービスでラダーもついてて便利。
アメリカでは引っ越し等の用事の時だけこうしてトラックを借りるのが普通だ。
手軽で良いサービスだと思うけど、日本の道路事情だといきなりトラックに乗れと言われても怖いよな。
少なくとも俺は日本で同じサービスがあっても軽トラよりデカいクルマは借りないだろう。

ところで、このトラックを借りに行った先が田舎の道具屋みたいなところで、古い建物に各種工具や農機具が置かれてある隅っこに、なぜかコオロギがたくさん飼われている大きな水槽が置かれていた。
このコオロギ、どうやら売り物らしい。
季節柄、アメリカでは鈴虫ではなくコオロギの声でも聞くのが風流なのだろうか…などと考えていたら、ちょうどそこにやって来た客が、なんとコオロギを注文したのである。
しかも結構な数だ。
俺はそれ以上つっこむ気はなかったのだが、怖いもの知らずの相方が、「そのコオロギ、どうするの?」と尋ねてしまったのだ。
その返答を当てられる人が、果たしているだろうか。

「ああこれかい、

 タランチュラの餌にするんだよ。

 彼…か彼女か知らないが、あいつはコオロギが好きでね」

トラックをレンタルするだけでなく、タランチュラの餌用にコオロギを養殖してるのかこの店…?
これからトラックを運転するという緊張のことなどすっかり忘れ、店先に置かれてある古いカシオのレジを見つめながらしばらく思考停止した俺であった。
ちなみに古臭い店のわりに店のおばさんはiPadで決済をしていた。カシオ使わないのかよ。
キャッシュレス社会は古き良きアメリカを飛び越えて、コオロギをも電子決済しつつ、無表情に突っ走ってゆく。