津軽天国

弘前方面から津軽半島を北上して竜飛岬へと至るルートの途中には、
竜泊(たつどまり)ラインという区間があって、
この道の魅力がまた、
とても一言では語り尽くせない。

日本海を臨みながらのワインディングは無数のつづら折りを形成し、
登りでは青空に向かって、
下りでは紺碧の日本海に向かって、
ただひたすらに伸びている。

すくいあげたクレープの生地が、
細い帯となってふたたびボウルに伝い落ちてゆくように、
その複雑でタイトなコーナーは、
次から次へと、
丹念に丹念に繰り返される。

飽きるほどに。
飽くことなく。

日本の道はあちこち走ってきたつもりだが、
ことバイクツーリングにおいて、
この竜泊ラインより魅力的な道は、
個人的にはないと思った。

ただ。

猿には気をつけろ。


竜泊ラインを超えたら、
そこはもう竜飛岬。
津軽海峡冬景色の唄う石碑があることで微妙に有名だ。

ここにはもちろん8年前の日本一周の時にも来てはいるのだが、
当時の俺は、その石碑のごく近くに、
『階段国道』というモノがあることを知らなかった。

この階段国道ってのは、
日本で唯一、国道なのに階段、階段なのに国道という場所。
長さ300メートル、高低差70メートルの階段が延々と続いている。

今回の俺は、前回見逃したこの階段国道を見物するために、
わざわざ竜飛岬まで来たようなものだった。

ほー、なるほどなぁ。
確かに、国道が階段である。

ん、あれ。
国道ってことは、
つまり、バイクで走ってもええんやろか。

階段国道入口をよくよく見回してみるが、
「バイク通行禁止」とはどこにも書いてない。

おぉ、いいのか。

そうなると、まずは下見である。
階段国道を上から下まで歩いて調査してみよう。

むう。
この階段、予想よりかなり長い。
歩いて下りて上がるだけで、
運動不足気味の俺には結構こたえたぜ。
そして、長いわりには幅が狭い。
コース取りは、前半はわりとストレート風味に伸びているが、
なんせヤバそうなのが後半。
木の葉落としのような急カーブが連続しており、
ここをバイクで走破するのは実にめんどくさそうだ。

…しかし。
ひとたび思いついてしまったからには、
どうしてもやってみたくなるものであろう。

まずは、バイクに積んだ箱とギターをはずす。
こんな重い物体を載せたまま300段の階段を下りるのは自殺行為、ヘタすりゃ他殺行為だ。

荷物を下ろして身軽になった我がXR号に跨がり、
階段国道の最上段の前まで来る。

一段下りたら、もう後戻りはできない。

…さぁ、行くか。行かないか。