走れない夢

中学、高校と実は陸上部だった。
それと関係あるのかないのか、
時々「走れない夢」を見る。

シチュエーションは毎回色々だが、
とにかく前に向かって全力で走れない。
脚はノロノロとスローモーションでしか動かず、
でも脚というか多分全身は走ろう走ろうとして精一杯力みまくっている。
それがもどかしくてもどかしくてしょうがないのに、
なぜか後ろ向きになら走れるのだ。
というより前より後ろ向きのほうが圧倒的に早いので、
結局後ろ向きになって走ってしまう。
そんな奇妙な夢だ。

青森県の道の駅で野宿している今もまた、その夢を見た。
しかし今回は少し結末が違った。

夏だろうか。
暑くはないが強い日差しのなか、
まっ青な海の上で、俺は走っていた。
今回はハードルを飛んでいたようだったが、
いずれにせよいつもと同じで、
全身がこわばってまったくスピードが出ない。
よく日焼けした短髪の女の子が俺を心配してくれているようなのに、悪いことをしてるなと思う。

今回もやはり後ろ向きになれば早く走れそうだが、それはしたくなかった。
なんで走れないのか。
そう考えて、
「全身の力みが身体を縛っている」ということに気づく。
脚だけじゃない、身体全体の筋肉がじっくりと緩むように意識しよう。
そうすれば身体は前に向かって自然と走り出すに違いない。

…でも、それでも走ることはできなかった。
身体を緩めればいいんだと思ってるのに、自分の身体は言うことを聞いてくれないのだ。

その時。
なぜかはわからないが、
苦しいスローモーションで走りながら俺は、
突然泣きはじめた。

涙を流し、出ない声をあげて泣いていたように思う。
そしてその瞬間、
身体はうそみたいに軽く、走りはじめた。

きらめく夏の海の上を、
全力疾走とはいかないようだったが、
俺は確かに気持ちよく走っていた。

今まで10年以上この夢を見続けてきて、
初めて走れるようになった。

人にはたいして理解されないかもしれないが、
これは俺にとっては大変な衝撃である。

こんな大事な夢を忘れたくないので素早く書いてみた。
大事な夢なら忘れないだろうと思いきや、
すでに書いてて細部が不鮮明になりつつある。

とにかく俺は、走り出せたらしい。

泣くことがきっかけだった。

そんな夢を、今この時に見た。

ただただ、不思議だ。